気温の低い冬は、ヒートショックのリスクが高まる季節です。高齢者が入浴の際にヒートショックで亡くなるというニュースを見たことがあるのではないでしょうか。令和4年度人口動態調査によれば、浴槽内での溺死及び溺水は6062人、内65歳以上の高齢者は5737人です。[注1]
 
ヒートショックは心筋梗塞や脳卒中など重大な病気につながる可能性があるため、高齢者がいる家庭では特に注意が必要です。
 
一方で、起こりやすい条件や適切な対策を理解しておくことや、住宅環境を整えるなどの対策を行なうことで防げる可能性が高まります。
 
この記事では、ヒートショックの原因や対策について紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
 
[注1]政府統計の総合窓口 「5-35 家庭における主な不慮の事故による死因(三桁基本分類)別にみた年齢(特定階級)別死亡数及び百分率」
 

ヒートショックの症状と原因

 

ヒートショックを防ぐためには、発生のメカニズムを理解しておくことが大切です。こちらでは、ヒートショックの症状と原因を解説します。

症状  

ヒートショックの症状としては、主に以下の5点が挙げられます。
 
  • めまい
  • 頭痛
  • 胸や背中の痛み
  • 嘔吐
  • 失神
 
軽度のヒートショックでは「めまい」や「ふらつき」が出る程度ですが、重症の場合は嘔吐や失神などの症状が現れ、脳卒中や心筋梗塞を発症している可能性があるため危険です。特に胸や背中の痛みは、心筋梗塞の際に現れる代表的な症状の1つです。

原因  

ヒートショックの原因は、温度差によって起こる血圧の急激な変化です。ヒートショックが多く発生する冬場は、暖房の有無によって家の中の温度が大きく変化します。
 
暖かい場所から寒い場所に移動すると、血圧は急激に上昇します。寒い場所では血管を収縮させ血液の量を抑えることで、熱を身体の中に閉じ込めようとします。一方、暖かい場所では身体の熱を逃がすために血管を拡張するため血圧は低下します。
 
室温差の大きい場所の行き来は、血圧の急激な変化を繰り返すことにつながり、ヒートショックの原因となるのです。

ヒートショックのリスクが高まる条件   


ヒートショックの、起こりやすい場所や発生リスクが高い人の特徴が明らかになっています。ヒートショックが高まる条件を理解して、対策を検討しましょう。

発生しやすい場所・環境  

ヒートショックは、暖かい場所から寒い場所に移動した際に多発します。家の中では、主に以下の場所で注意が必要です。
 
  • 浴室
  • 脱衣所
  • トイレ
  • 廊下
 
浴室や脱衣所は暖房が効いていない場合が多く、また衣服を脱ぐことによって体温が下がり血圧が上がります。その状態から湯船につかることで、一気に体温が上がり血管が広がることによって血圧が急低下します。
 
また、トイレや廊下も脱衣所などと同様に寒い場合が多く、暖かい部屋から移動した際にヒートショックが起こりやすい場所です。

リスクが高い人の特徴      

ヒートショックの発生リスクは人によって異なりますが、特に注意が必要な方の特徴は以下の通りです。
 
  • 年齢:65歳以上
  • 持病:高血圧、糖尿病、動脈硬化、不整脈、睡眠時無呼吸症候群など
  • 体型:肥満気味
  • 入浴習慣:お湯の温度が高い、飲酒後や深夜の入浴、長風呂
 
高齢者や持病のある方は、ヒートショックの発生リスクが高いと言えます。また若い人であっても、飲酒後の入浴や熱いお湯に長時間浸かる習慣がある方は注意が必要です。
 

【ケース別】ヒートショック対策に効果的な行動    


ヒートショックの基本的な対策は、血圧の急激な変化を防ぐことです。こちらでは、入浴とトイレの際にヒートショックを防ぐための効果的な行動を解説します。

入浴  

入浴時のヒートショック対策に効果的な行動は、以下の6つです。
 
  • 脱衣所や浴室を暖める
  • 浴槽の湯の温度を低め(38~40℃程度)に設定
  • かけ湯で身体を慣らしてから浴槽に入る
  • 食後すぐ、飲酒後の入浴はしない
  • 入浴の際に家族に一声かける
 
脱衣所・浴室を暖めたり浴槽の湯の温度を低めに設定したりすることは、急激な温度差を軽減するための基本的な対策です。
また、飲酒は血圧を下げる原因になるため、直後の入浴は厳禁です。
 
浴室でヒートショックになってしまった場合に備えて、家族に入浴することを一言伝える習慣も大切になるでしょう。

トイレ          

トイレは家の北側に位置することが多く浴室と同様に室温が低いため、ヒートショックが起こりやすい場所です。トイレでのヒートショックを防ぐためには、以下の2点を心がけましょう。
 
  • トイレを暖める
  • 排便の際にいきみすぎない
 
トイレを暖めることにより暖かい部屋との温度差を減らせるため、暖房器具の設置や便座ヒーターなどの利用が効果的です。また、排便の際はいきみすぎると血圧が上がるため注意しましょう。

ヒートショック対策におすすめのリフォーム        


ヒートショックを防ぐためには、家全体を暖めるリフォームが効果的です。また、ヒートショックを想定した備えも重要です。こちらでは、ヒートショック対策として効果のあるリフォームについて解説します。

窓の断熱      

浴室やトイレの温度が下がる原因は窓からの冷気です。一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会によれば、屋内の熱は窓から58%流出します。[注2]
 
窓の断熱は、内窓(二重窓)の設置や、断熱性能の高いガラスへの交換が効果的です。下記記事で詳しく紹介しています。ぜひ参考にしてください。
【関連記事】窓の断熱に効果的な方法とは?
 
[注2]一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会
 

浴室暖房機の設置

浴室を暖めるには、浴室暖房機の設置が効果的です。浴室暖房機には、天井に埋め込むビルトイン型や壁掛け型などのタイプがあります。
 
いずれのタイプも、既存のユニットバスに後付け可能です。天井へのビルトイン型は、脱衣所の暖房と連動して設置することができます。また、壁掛けタイプは既存の換気扇口を利用するため、設置が比較的簡単です。換気扇がついていない場合は壁に穴をあける必要があり、屋外に面した壁がある浴室でないと設置できないため、マンションなど換気扇がない場合は取り付けられません。

暖房器具用コンセントの増設

脱衣所やトイレのヒートショック対策には、コンセントを増設して暖房器具を置く方法もあります。コンセントの増設は比較的手間や時間のかからない工事であることが多いため、1箇所1〜2万円程度の費用で実施可能です。
 
比較的安価なため、リフォーム費用を抑えたい方におすすめです。

廊下への床暖房の設置      

廊下のヒートショック対策には床暖房が効果的です。ただし床暖房の設置には、直貼りで5〜7万円/畳、張替えで10万円/畳程度の費用がかかります。
【関連記事】床暖房の設置費用はいくら必要?
 
費用を抑えたい場合には、床の上に電気カーペットを敷く方法があります。また、床の上にアルミ遮断シートとカーペットを重ねて敷く方法も効果的です。玄関からの冷気が気になる場合には、廊下との間をカーテンで仕切る方法も良いでしょう。

手すりの設置          

ヒートショックによってめまいや立ちくらみが起こってしまった場合に備えて、浴室や廊下に手すりを設置することも検討しましょう。
 
立ちくらみによって頭から倒れてしまうと、重大なけがにつながる可能性があります。家を暖めるだけでなく、もしもの場合に備えた対策を検討することも大切です。

断熱性能の高いユニットバスへの入替・床材の交換 

浴室の冷え対策には、ユニットバスの入れ替えも効果的です。ユニットバスには、発泡プラスチックやポリエチレンフォームなどの資材を使った断熱性能の高い製品が数多くあります。ただし、断熱性能の高いユニットバスは高価であるため、入替には100万円以上の費用を見積もっておくことが必要です。
 
また、ユニットバス以外の在来工法の浴室の場合には、断熱性の高い床材に交換する方法があります。ユニットバスの場合には、床材のみの交換はできないため全体の入替えが必要です。
 
いずれの工事もお住まいの状況によっては取付できない場合がございます。まずはご相談ください。
【参考】近鉄不動産 NEWing 断熱リフォーム事例集
 

ヒートショックが起きてしまった場合の対応  


ヒートショックは、リスクを抑えた行動や住宅の断熱などによって発生を抑えることができます。それでも、ヒートショックを完全に防げるわけではありません。こちらでは、ヒートショックが起きてしまった場合の対応について解説します。

症状が軽度な場合  

めまいやふらつきなど症状が軽度な場合には、その場で座り動かないことが大切です。身体を動かすと血圧の変動が大きくなり、症状が悪化するためです。スペースがある場所では、身体を横にすると良いでしょう。
 
時間が経っても症状が改善されない場合には、救急車を呼びましょう。救急車を呼ぶ判断がつかない場合には、救急安心センター事業(#7119、または地域ごとに定められた電話番号)を利用して対応について相談しましょう。

重度の症状の場合  

激しい頭痛や吐き気など症状が重度な場合は、すぐに家族など同居人や救急に助けを求めましょう。救助する方はまず救急車を呼び、対応の指示を仰ぎます。また、浴槽にいる場合には溺れないように栓を抜き、可能なら外に出して寝かせます。
 
寝かせる際には、頭を水平にすることが必要です。枕を入れるなど頭を上げてしまうと、血の巡りが悪くなるためです。また嘔吐している場合は、窒息を防ぐために顔を横にしてあげましょう。
 
心筋梗塞である場合には、発症から1時間以内に適切な処置をすることが重要です。重度な症状が見られる場合には、ためらわずに救急車を呼びましょう。
 

ヒートショック対策には適切な環境整備と行動が大切


ヒートショックは、急激な温度変化による血圧の急激な変化が原因で発生します。冬場に暖かい部屋と寒い浴室やトイレを行き来すると、血圧の急激な変化を生みやすいため、ヒートショックを起こす可能性が高まります。
 
ヒートショックの予防は、暖房で浴室やトイレを暖めることだけではありません。かけ湯で体を慣らしたり飲酒後の入浴を避けるなどの行動が効果的です。
 
また、リフォームによって家の中の温度差を軽減するのも良いでしょう。家の中の温度差を減らすことで、生活の快適性も大きく向上します。ヒートショック対策を考えるこの機会に、ご自宅のリフォームも検討してみてはいかがでしょうか。