INTERVIEW

vol.2 「船場の暮らし」の今と、これから。
大阪の中心ならではのアクセシビリティと歴史・文化が共存しながら、さらに
「暮らしの場」としての可能性も広がっている、船場。
第2弾では「船場女子会」を立ち上げた三谷氏に、
船場の暮らしの今、そしてこれからについて、お伺いした。
Facilitator
株式会社橋爪総合研究所 代表
橋爪 紳也
大阪府立大学研究推進機構特別教授、船場倶楽部特別顧問。工学博士。1960年、大阪市生まれ。2017年に「生きた建築ミュージアム」の活動を対象に、日本建築学会賞を受賞。著書多数。
Guest
船場倶楽部事務局 「船場女子会」代表
三谷 直子
まちづくりコンサルタント。船場の歴史文化の魅力にひかれ、10年程前からプライベートで船場のまちづくり活動に参加。「せんば鎮守の杜芸術祭」の運営やガイドブック制作などに幅広く携わる。
01
「旦那衆の街」に
女性が関わる意義
橋爪氏
橋爪
三谷さんご自身の船場との関わりとしては、そもそも何がきっかけだったのでしょう。
三谷
もともとは首都圏で、まちづくりや都市計画の支援をするような仕事をしていたのですが、やはり外から街に関わるのではなく、実際にどこかの街でプレイヤーとしての活動をしていきたいと考えるようになりました。
三谷氏
三谷
ちょうど10年ほど前、東京から大阪に帰ってくることになり、その時に大阪に詳しい方に「どこか面白い街はないですか」とご相談したところ、「ぜひ船場に」とお誘いいただいたのがきっかけで、船場の街と出会うことになりました。
橋爪
実際に船場に入ってみて、どんな印象でしたか。
三谷
そうですね、最初はなかなかどう関わっていいのか、少し敷居が高いのかなと思っていたのですけども……いろんなところで顔をあわせる方が、とにかくオープンで。気さくにお話ししてくれる町会長さんが、実は老舗の何代目であったとか。そういう方に「こんな会があるからこないか」と誘っていただいて。そうして一歩一歩、この街に近づいていった感じですね。
橋爪
敷居が高そうに見えるけども、飛び込んでみたら人間関係がうまく繋がっていく、と。そんな風にネットワークが繋がっていくのが、大阪の街の良さですから。一方で船場のまちづくりに関わる方は「旦那衆」の文化から、どうしても男性が多いのですが、そんな中で三谷さんは「船場女子会」というものを始められました。女性のネットワークは船場では新しい流れですが、きっかけはどんなところにあったんでしょうか。
堺筋周辺
堺筋周辺
三谷
「船場女子会」はしっかりした団体として活動しているというよりは、緩やかな女性の繋がりなんです。おっしゃるように船場のまちづくりで出会う方はやはり男性が中心で、街の歴史を熟知し、どうあるべきかをしっかりと議論されています。そこに女性が気軽に参加するには、ちょっとハードルが高くなっていました。でも実際に街に関わり出すと、実は面白いアイデアや、自身でイベントを開催されている魅力的な女性がたくさんいることが見えてきたんです。そうこうするうちに、たくさんの方から「ぜひ女性だけで集まる場を作ろう」との声が高まったのが2年ほど前ですね。まずお声がけのために、facebookのグループを作ったのが始まりでした。
橋爪
参加するための資格のようなものは、あるのでしょうか。
三谷
それはもう、「船場が好き」というだけで、誰でもOKです。友達同士で声をかけて、輪をつないでいっているというところですが、今すでに30人ぐらいの方が参加されています。
02
暮らしを彩る、
新たなアイデアたち
橋爪氏
橋爪
そんな「船場女子会」では、具体的にはどのような活動をされているんですか。
三谷
ゆるやかなつながりでの活動というところもあって、「何か」という具体的なものは少ないんですけど、まずはお互いにイベントなどの情報を交換するということ。実際の活動としては、「北御堂の盆踊りに、みんなで浴衣を着て行ってみよう」ということをしました。まず自分たちが街を楽しんで、「面白いから一緒に行こうよ」というのが、船場を好きになるきっかけになっていくと思うので。
三谷
その後はコロナの影響もあって、思うような活動もできていないんですけど……アイデアとして、盆踊りに行くなら「集まって練習会をしてみよう」とか、「身につけるサコッシュを一緒につくろう」とか。
暮らしに根付くという意味では防災も大事ですよね。でも、これをカチッと勉強しようとすると皆さんに敬遠されるので、「アーバンキャンプ」という形で、実際にテントで寝泊まりしながら防災について考えることができたらいいよね、なんてアイデアもあります。そうしたアイデアを話し合うことが、今のところ活動のメインになっています。
橋爪
船場は文化施設や劇場が少ないんですけど、神社などの人が集まるスペースはたくさんあります。そこをどう使っていくかも、大事な課題になると思うんですね。秋に「鎮守の杜の芸術祭」(※1)というイベントが行なわれていますが、こちらをご紹介いただけますか。
三谷
正式名称は坐摩神社(いかすりじんじゃ)、通称「坐摩(ざま)さん」という神社があるんですけど、その境内をお借りして、神社の本殿を舞台とし、砂利のあるところに客席を作って、本格的なオペラを楽しんでいただくというイベントを10月に開催しています。これは2005年から続いており、私は途中からですが、もう10年ぐらい実行委員として参加しています。もともと神社というのは寄席の発祥の地であり、町人の文化を支えてきた場所だったんです。そこで現代の新しい文化を生み出そうということで、総合芸術であるオペラに着目されて、始められたということです。
橋爪
船場は人形浄瑠璃や文楽の発祥の地でもあります。そこにまた、さまざまな新しい文化が加わっていくのは素晴らしいと思います。
※1 「鎮守の杜の芸術祭」は、「大阪の中心部『船場』の地から新しい文化・芸術を発信したい」との思いから、2005年より活動スタート。船場の氏神である鎮守の杜、坐摩神社を舞台に毎年10月、オペラの公演を主軸にさまざまな音楽・文化芸術を通じて活気あるまちづくりを目指している。
03
街全体を「居場所」
として愉しむ
三谷氏
橋爪
三谷さんは、船場の暮らしぶりについて、どう思われますか。
三谷
この街にお住いの方に、アンケートとヒアリングを行ったことがあります。皆さんがこの街を選んだ理由としては、まず一番は「利便性」。続く二番目・三番目の理由としては、「街並みがいい」「歴史文化がある」というところが挙げられてきます。それが船場に住むことの「豊かさ」として、共有できることなのかな、と思います。
橋爪
もともと船場にゆかりのあった方々が、郊外から戻ってきているというよりも、まったく縁のなかった方が入ってこられているのでしょうか。
三谷
ヒアリングをしている中では、昔は老舗の商店で、船場でお商売をされていた方がいったん郊外に出られて、リタイアして船場に戻ってこられたという方が何名かいらっしゃいました。その方々も、街に対する思い入れがあるからこそ、ここに戻ってきたとおっしゃっていましたね。また、新しくこの街に来られた子育て層の方であるとか、リタイアしたので悠々自適の暮らしを都心でされたいという方からも、町並みや歴史文化への高い評価をお伺いすることができました。あと船場には地域の中に公園や緑というものは少ないのですが、ちょっと足を伸ばせば、靭公園や大阪城公園、中之島公園など、日常的に移動できる範囲に豊かな公園があります。
French Market(徒歩9分/約650m)
French Market(徒歩9分/約650m)
三谷
アンケートの中には、ご夫婦で仲良く住まわれている方で「とにかく飲食店を巡るのが楽しみ」というご意見もありました。船場にはいわゆるチェーン店ではない、個人経営のお店がたくさんあります。そういうお店に通ううちに、店の方が他の店を紹介してくださったりで、どんどんコミュニティが広がっていく。「同じマンションの方と、偶然お店で出会って仲良くなる」という現象も生まれています。とても都会らしいコミュニティのあり方ですよね。
橋爪
船場では街の中に、多くの人が自分の「居場所」を見つけている感じがするんですよ。住んでいて、働いて、なおかつカフェなどいろんな場所で寛いで。そんな「居場所」としての船場について、どう思われますか。
三谷
近くにお住いや事務所がある方も、ちょっと環境を変えて仕事がしたいとのことから、毎日通われているカフェがあったり、そこでお仕事をされていたり。またコ・ワーキングスペースや、気軽に借りていろいろと活用できる場所も増えていますので、外に出ていろんな使い方ができる街になっているなぁ、と思います。
04
アイデアコンペから
広がる可能性
橋爪氏 三谷氏
橋爪
船場ではまちづくりのアイデアコンペをすることがありますが、最近では「船場2030」(※2)ということで、「ワクワクする船場のこれから」をテーマに、多くの方からアイデアをいただきました。その中で、大学生のグループがいろんなアイデアを出されていました。私が選定の委員長で、三谷さんは実践をされましたね、アイデアだけじゃなくて、それを具現化しなければということで。
三谷
コンペで入賞した学生さんや若い社会人の方で有志のチームを作って、実際に公園でイベントをさせてもらいました。
三谷
公園にソーシャルディスタンスを感じながら楽しめる仕掛けをつくって。最初はやはり敷居が高いというか、「いろいろチャレンジしたいけど、どこから声をかけていいかがわからない」という不安があったようですが、私たちが町会長さんなどをご紹介するなどでつなぎ役を果たすことで、学生さんたちには「いろんなことが試せる街なんだ」という実感を持っていただけたと思います。
あとひとつ、これはぜひ実現したいアイデアなんですが、タワーマンションにお住いのお母さんに「街の中で手持ち花火がしたい」というご提案をいただきました。公共の場では花火は禁止されているんですね。だから手持ちの花火で、子供達が憩える場が街の中の欲しいというご提案でした。今回のイベントでは実現できなかったんですけど、次はぜひ、駐車場や空地などを使って安全にできればと思います。そうした生活者の声を、私たちが実現に結びつけていきたいですね。
三谷氏
橋爪
街全体で羊を飼おう、というアイデアもありましたね。「糸偏」の街なので、その象徴としてみんなで共同で羊を飼おう、と。
三谷
大きな暖簾を作って、街じゅうを暖簾で飾ろう、というアイデアもありました。
橋爪
今までなら難しかったそうした発想が、柔軟に街に取り込まれていくと、より暮らしが楽しくなっていきますね。
※2 「船場2030」は2019年4~9月に開催、「2030年の船場のまち」をテーマとして行われたアイデアコンペ。「アイデア提案部門」に55作品、「まちづくり提案部門」に32作品の応募があり、10月にそれぞれ入賞5作品が選定された。橋爪氏は審査委員長を、三谷氏はその事務局で、広報からコンペ運営までを主導的に手掛けた。
05
四季折々の催事が息づく街
橋爪氏 三谷氏
橋爪
「船場女子会」から、新しく船場にこれからお越しになる皆さんにお伝えしたいことなどはありますか。
三谷
船場を楽しんでいる一人としては、いきなり街の歴史や文化の扉を開けるのは難しいかもしれないので、ぜひイベントをきっかけにして欲しいですね。秋の「船場まつり」や「船場博覧会」、東横堀川の水辺には「e-よこ会」(※3)、そして御堂筋でもいろんなイベントが行われます。年間を通じて、歴史や文化が体験できるイベントが、規模は小さいながらもたくさんあるんですね。
三谷
そうしたイベントをきっかけに船場の街を一度体験してみることで、人のつながりの輪に入っていただけるといいのでは。イベントをきっかけに、「船場女子会」にも入っていただけると嬉しいですね。
三谷氏
橋爪
近年特に人気になってきたイベントに、「船場のおひなまつり」もありますね。
三谷
毎年2月の終わりから3月3日までの一週間ほど行われていますが、これは船場の旧家の立派なお雛様を、ショーウインドウに飾って皆さんに見ていただこうというものです。遠方からのファンの方もたくさんいらっしゃいますし、身近で本物に出会える機会になっています。
橋爪
老舗の商家の方がお持ちの、ほんとに立派な雛飾りを見て、町歩きやグルメを楽しんで。これは新しくお住まいになる方、特に子育て層の皆さんには、とても良いイベントですね。
船場には四季折々、いろんなイベントがあります。神農さんのお祭りもあれば、大阪マラソンの時には御堂筋を走るランナーを応援することができて、天神祭では船渡御も大川沿いで見ることができますし、船場だけではなく周辺部でもさなまざな催し物があるので、四季折々、歳時記のように生活を楽しんでもらえればと思います。
※3 「e-よこ会(正式名称「東横堀川水辺再生協議会)」は2006年に、東横堀川界隈の住民やショップオーナー、地元企業などが集まって発足。水辺の清掃などのボランティア活動のほか、毎年5〜6月にはコンサートやワークショップ、クルージング等からなるイベント「e-よこ逍遥」を、1ヶ月にわたって開催している。