Ceramic art

美しい瑠璃色の器と島根に息づく民藝の精神

ちょっとした民藝ブームともなっている昨今、モダンな器をつくる窯元が若い世代からも支持されています。民藝の聖地といわれる島根県には、若者にも人気の出西窯(しゅっさいがま)やエッグベーカーで有名な湯町窯、表情豊かな釉薬づかいが印象的な袖師窯などが点在。器の魅力はもちろん、受け継がれる民藝の精神、作り手の想いやこだわりを前編・後編に分けてご紹介。今回は、出西窯に着目します。

後編はこちら


出西窯(島根県出雲市)

JR「出雲市」駅から車で約15分。のどかな田園風景の中に、県内外から多くの人が訪れる「出西窯」があります。ここは、島根県や山陰地方を代表する窯元。工房に隣接する展示・販売場「くらしの陶・無自性館(むじしょうかん)」には、現代の暮らしにフィットするモダンな器たちがずらりと並び、こちらの器を使ったベーカリーカフェも大賑わい。地元産の原料と丹念な手仕事によって生まれる実用的で美しい器が、多くの人を惹きつけています。


出西窯の器たち

出西窯を代表する「縁鉄砂呉須釉皿(ふちてっさごすゆうざら)」。出西ブルーと呼ばれる神秘的な呉須釉とキリッと引き締めるようなグレーの縁鉄砂とのコントラストが美しく、1989年に第10回日本陶芸展優秀作品賞を受賞。誕生当初の縁はザラザラとした質感でしたが、現在は洗いやすさを考慮して縁の質感はなめらかに。ベストセラーとなりながらも少しずつアップデートを重ね、おごることなく暮らしになじむ器を追求する出西窯の姿勢が表れたスタンダードウェアです。呉須釉を用いたボウルも人気商品。
縁鉄砂呉須釉皿(9寸約27cm)8,800円/ボウル呉須・外鉄 4寸約12cm 1,650円・5寸約15cm 2,200円

ブルーの印象が強い出西窯ですが、縁鉄砂呉須釉皿が誕生するまでは白と黒の器が定番だったとか。写真は鎌倉にある民藝店「もやい工藝」の久野恵一氏の指導で生まれたイタリー皿。黒は柚子肌が美しいマットな質感で、白は卵の殻のような優しいオフホワイト。その名の通りパスタや魚介料理はもちろん、和食にも合う器です。
イタリー皿(7寸約21cm )3,630円

付け合わせのおかずやサラダ、ヨーグルトなどの器として大活躍する小鉢。呉須釉のブルーをはじめ、白、黒、飴色もあり、カラーバリエーションが楽しめます。現代の食生活になじむよう膨大な数の製作を重ね、形状のアップデートも繰り返して現在の形に至った器です。
はたぞり切立鉢(4寸約12cm )1,540円

愛らしいフォルムのモーニングカップは、マグカップの中で最も人気のある定番商品。バーナード・リーチ氏の指導のもとで生まれ、容量は約250㏄あり、コーヒーだけでなくカップスープにも使えるサイズなのがうれしいポイント。持ちやすさに配慮し、把手(とって)には指置きが付いています。その魅力はのちほど解説します。
モーニングカップ2,750円


出西窯の工房

出西窯の始まりは戦後間もない1947年と、比較的歴史の浅い窯元です。地元農家の次男・三男である青年5人が集まり、陶芸未経験ながら創業。河井寬次郎氏や柳宗悦氏、濱田庄司氏、バーナード・リーチ氏など民藝運動の中心メンバーたちの指導を受け、民藝の精神をはぐくみながら実用的で美しい器をつくり、今日に至っています。創業時から共同体の形は変わらず、現在は15名が器づくりに励み、一人ひとりが成形から釉掛けまですべての工程を手がけています。

創業メンバーは、地元が焼き物に適した土に恵まれていたことから陶器づくりに着目。現在も、原料となる土や釉薬、薪は入手が困難になりながらも地元産にこだわり続けています。また、丹念な手仕事もファンを魅了する秘訣。釉薬を掛ける前に白い粘土を使った白化粧を行うことで、美しい色合いを表現。縁鉄砂呉須釉皿のような発色の美しい器は、手間を惜しまぬ丁寧な仕事が生み出しているのです。

「用の美」といわれる民藝の精神。ただ美しいだけでなく、「台所の道具」として実用的であることにもこだわっています。たとえば、モーニングカップの持ち手。バーナード・リーチ氏から伝授されたウエットハンドル手法を用いてつくられています。

ウエットハンドル手法は、あらかじめ持ち手部分を作っておくのではなく、成形した本体に持ち手部分となる棒状の粘土を付けながら形を整えていく手法で、本体から持ち手が生えているような自然な一体感とカップを持ったときの安定感が高まります。さらに、持ち手の上に親指を置く「指置き」を付けることで、女性でも大きなカップが持ちやすくなります。


出西窯 代表 多々納さんにインタビュー

出西窯の駐車場には、平日にも関わらず、県外のナンバープレートを付けた車が数多く停まり、展示・販売場「くらしの陶・無自性館」や隣接するベーカリーカフェは、幅広い年代の人々で賑わっています。青年5人で創業し、共同体として民藝の精神を守りながら歩んできた出西窯。その原動力を創業メンバーのご子息で代表を務める多々納(たたの)さんにお聞きしました。

「父たち創業メンバーは、決して裕福ではなくとも笑顔でイキイキとして働いていたのが印象的で、僕が大学を卒業して窯に入ったとき、こうした工房を受け継いで、次の世代に残していくことにワクワクしたのを覚えています。もちろん楽しいことばかりではありません。共同体としてそれなりの規模を維持するのは大変です。無自性館に加え、ベーカリーカフェやセレクトショップを誘致して『出西くらしのvillage』をつくったのも、工房を次世代へ残すためでもあるのです」

民藝運動を担った錚々たる人物たちから指導を受け、民藝の精神は今どのように作用しているのでしょうか。

「私たちは台所の道具を作っている。これはずっと変わらないことです。でも、使う方々の食生活は時代と共に変化していきますから、常に生活を直視して使い手に寄り添った物をつくらなければいけません。これは民藝というより、人様にお代をいただいて器づくりを行うのであれば当然のこと。作り手として今の暮らしに合わせた器を模索するのに、1人で切り盛りする窯元が3世代続いても模索する人は3名ですが、私たちは共同体として15名の作り手がいます。それぞれが自分の暮らしを見つめれば、大きな力になります。あと、原料も地元産にこだわり、地元の方々が手に取りやすい価格を守り続けています。若い方が友人の結婚祝いに、出西窯の器をプレゼントする。出雲・島根に根を下ろした窯元であり続けたいですね」


くらしの陶・無自性館

工房の隣にある「くらしの陶・無自性館」では、出西窯の器を展示・販売しています。さらに、ベーカリーカフェ「ル コションドール 出西」やセレクトショップ「Bshop 出西店」も併設し、 この3店舗で出西くらしのvillageを構成。ベーカリーカフェでは、出西窯の器を使ったカレープレートなどが楽しめ、器の魅力を体感できます。出西窯の器は公式オンラインショップなどでも購入可能。ですが、出雲を訪れ、出西くらしのvillageでゆったりとお気に入りの品を選んでみたいもの。ベーカリーカフェでランチを、セレクトショップでショッピングも楽しむ。そんな素敵な休日が過ごせるはずです。


出西窯

[住]島根県出雲市斐川町出西3368
Tel 0853-72-0239

展示販売場「くらしの陶・無自性館」

[時]9:30〜18:00 [休]火曜(祝日を除く)

※新型コロナウイルス[COVID-19]感染拡大防止のため、工房見学は休止中。

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出雲に息づく手仕事にふれて。

もしも出西窯へ訪れたなら、あわせて足を運びたいのが「出雲民藝館」です。地元の豪農 山本家の米蔵などを活用し、歴史的建築物を目当てに来館する方も多いとか。本館には島根県を中心に全国から収集した陶磁器をはじめ、漆器や木工品、染織りなどを展示。西館では山陰地方でつくられた近代の民藝品を見ることができます。

出雲民藝協会の会長も務める出西窯の多々納さんは「産業化が進むなかで手仕事がどんどん減っており、島根でも徐々に作り手は減っています。それでも出雲は都会から離れている分、産業化が進まず、民藝の流れをくむ手仕事が多く残っています」と話します。売店には山陰地方を中心とした民藝品がずらりと並び、民藝好きの方にはたまらない品揃え。中でも、藍染の品々や祝凧といった出雲の伝統工芸品も販売。素朴ながら美しい手仕事の魅力にふれることができます。

出雲民藝館

[住]島根県出雲市知井宮町628
Tel 0853-22-6397

[時]10:00〜17:00(入館は16:30まで)

[休]火曜(祝日の場合は翌日)、年末年始

[料]一般800円

公式サイトはこちら