Ceramic art

暮らしにすっと馴染む素敵な器を求めて。

家で食事する時間が増えると、料理だけでなく、器にもこだわりたくなりますよね。普段遣いができ、使うほどに愛着も深まっていく。そんな器を求めて、兵庫県にあるつくも窯(神戸市北区)と英一窯(丹波篠山市今田町)を訪ねました。普遍的な美しさとアンティークのような味わい深さを持つ素敵な器と作り手をご紹介します。


つくも窯(神戸市北区)

のどかな里山の風景が広がる神戸市北区淡河町。山間に佇む茅葺屋根の古民家で、陶芸作家の十場天伸(じゅうば てんしん)さんが「つくも窯」を営んでいます。伝統的な技法をベースにしながら現代の暮らしに馴染む十場さんの器は、入荷を心待ちにする人が多くいるほどの人気ぶり。アメリカや韓国、台湾などでも展示会が行われています。工房の一般見学はできませんが、今回は特別に見せていただきました。


つくも窯の器たち

十場さんの作品は、「スリップウェア」と呼ばれるイギリスの伝統的な装飾の技法が軸となっています。写真の4種は、つくも窯の定番ライン。黒と白のコントラストが効いたものは、モダンで華やか。食卓にアクセントをもたらしてくれそうです。黒と飴色の組み合わせは、クラシカルな雰囲気で落ち着いた佇まい。「自分で窯を開いたときから作っているのですが、黒と白の組み合わせは20代の若い感性ならではの作風ですね。40歳になる今は、同じスリップウェアでも落ち着いた物が多くなってきました」と十場さん。

スリップウェア楕円皿(黒)7,500円・7寸皿(白)7,000円/楕円リム皿(黒・飴色)7,000円・楕円皿(飴色)7,500円

ソーダ釉を用いた青色の器も、十場さんの定番ライン。アンティークのような趣の色合いもあれば、艶やかな深いブルーの品も。この違いがソーダ釉の魅力と十場さんは話します。「重曹を使ったソーダ釉は焼き上がりがどんな風になるのか想像がつかない面白さがあります。試行錯誤を重ねて、ある程度安定させることに成功しましたが、それでも1点1点色合いの濃さが異なり、表情の違う1点ものができるのが魅力ですね」。また、同じスリップウェアでもマットな質感が印象的な器も。焼き締めた器に漆を塗ってさらに焼成され、手間と時間をかけた逸品です。

ソーダ釉 いずれも4,000円/漆スリップ6寸鉢8,000円・7寸皿8,000円

穴窯を使った十場さんの新しいライン。釉薬をかけて窯内の高い所で焼き上げたものは宇宙や炎を連想させる神秘的な模様に。一方、高温となる窯内の低い所で焼き締められたものは、ゴツゴツとした質感を持つ素朴な雰囲気。「同じ窯でもこれだけバリエーションの違う物が焼き上がるので、最近は力を入れて作っています」

穴窯スリップウェア楕円鉢8,000円/穴窯焼き締め6寸鉢6,000円

耐熱皿も人気ラインのひとつ。新品でも長く使い込んだかのような味があり、落ち着いた佇まいなので普段遣いにもぴったり。「耐熱皿は、火にかけると変化する土の特性があり、使うほどに経年変化が楽しめます」と十場さん。お気に入りの模様を選び、愛着を持って大事に育てていきたい一皿です。

耐熱スリップウェア 長皿4,700円・長皿(小)4,500円


つくも窯 十場天伸さんの作陶風景

十場さんの代名詞ともいえるスリップウェア。素地にスリップ (化粧土) をかけ、櫛目などを使って模様を描きます。「同じ物を大量に作っても面白くないですからスリップウェアは模様の描き方が同じでも、微妙に変化させるのが面白いんです」


制作風景動画

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工芸の専門学校を卒業後、実家で窯を開いた十場さん。現在はお弟子さんたちと作陶されています。ろくろを回すと瞬く間に美しい器を成形。スリップウェアといった模様に定評がある十場さんですが、確かな技術から生まれる造形美も魅力です。


制作風景動画

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つくも窯 十場天伸さんにインタビュー

子どもの頃から物を作るのが好きだったという十場さん。陶芸の道に進んだきっかけをお聞きしました。「高校のときに陶芸と出会って、その時に仕事にしようと決めていました。島根県の高校だったんですが、周りにスリップウェアで知られる湯町窯など有名な所があるので、窯元を見て回ったり、学校内に河井寛次郎の作品があったり、良い物を見ることができる環境でしたね。そのとき見たものが、少なからず今の作陶に影響していると思います。

高校卒業後、もっといろんな物を見ておきたかったので、沖縄やヨーロッパへ行き、美術留学で3年ほどアメリカへ。フィラデルフィアの美術館でスリップウェアに出会い、運命を感じたんです。その後、日本へ戻って京都の工芸専門学校で陶芸の基礎を学び、スリップウェアをやると決めていたので、窯元へ弟子入りはせず、実家に自分の窯を作ることに。若さと勢いがあったからこそできたんでしょうね」

平日は作陶、週末は陶器市などで売り歩くという日々を過ごして数年。徐々に器を置いてもらえるお店が増え、つくも窯は軌道に。「ありがたいことに、待っていただいている方もいて、本当は注文に応えて大量に作ればいいのかもしれませんが、ただ機械的に作ってお渡しするのが申し訳ないので、作るのが楽しいと思えるときに、丹精を込めて作りたいですね。

あと、新しいことにもどんどん取り組んでいきたいんです。今は穴窯に力を入れて、個展などでも出していこうと思っています。自分がワクワクしながら作った物こそ、人にも喜んでもらえる。この気持ちはずっと大切にしています」。センスや技法が注目される十場さんですが、物づくりへの素直な気持ちと誠実な人柄が、人々を魅了する器づくりの源となっています。


つくも窯

●工房の一般見学はできません。
●器は公式サイト掲載の各取扱店にて購入できます。

公式サイトはこちら


英一窯(丹波篠山市)

日本六古窯のひとつに数えられる丹波焼。歴史ある焼き物の里に、SNSを通じて女性に人気の器を作る窯元があります。シンプルで使い勝手のよい形とサイズ。黒と白というオーソドックスなカラーながら、アンティークのような風合いで料理を引き立てるのが英一窯のプレートです。Instagramで「英一窯」と検索すると、こちらのプレートを使ったフォトジェニックなお料理がずらり。その反響で、取り扱い店によっては品切れが続く状態だそう。


英一窯のプレート

新たにオープンするレストランや若い女性たちが買い揃えやすいプレートを。そんな想いから使いやすい色とサイズ、価格にこだわって、英一窯の市野英一さんが作り始めたのは数年前のこと。SNSで話題となって市野さんも驚かれたそう。「わざわざ遠方から訪ねて買いに来てくれる方もいて、コンセプト通りとはいえ、ここまで反響があるとは思いませんでした。ひとつひとつ手作りしているので、なかなか注文に追いつかないのですが、できるだけがんばって応えていきたいですね」

正方プレート皿(26cm)2,500円/長角プレート皿(横27cm)1,500円

リムのあるフラットでシンプルなプレート。形は、丸と正方形、長角の3種類で、それぞれにサイズのバリエーションがあります。黒は肉料理やスイーツ、白は野菜などと相性抜群。黒の釉薬は、漆黒ではなく光の当たり方で器の質感が見える味わいのある色合い。また、白い釉薬の隙間から見える赤茶色は丹波の土の色で、この自然な風合いがモダンな雰囲気の中で温かみを演出しています。「丹波焼ですから、やはり丹波の土にはこだわっています。丹波焼といえばこの色と自信を持って作陶しています」と市野さん。

丸プレート皿(径18cm)1,000円


英一窯 市野英一さんの作陶風景

2021年に開窯37年を迎え、公募展で数え切れぬほどの入選・入賞歴を持つ市野さん。長年の経験に培われた技術がなければ、このプレートは作れないそう。「形がフラットな物ほど、厄介なものはないんです。焼き上げるときに土が縮むことでプレートが歪んでしまうと、まっすぐ平らにならない。その歪みを考慮して土が反発しないように成形しないと。ただ形を整えるだけではダメなんです。土は生きているから、意外と焼き物って難しいんですよ」

味わいのあるプレートの秘密は手仕事にあるとも。「縁の内側が一段低くなっているでしょ。これ、手作業で内側を全部削ってるんですよ。大量生産するなら石膏の型を使えば合理的です。ただ、仕上がり均一できれいになり過ぎてしまう。手作業だと、微妙に揃っていないところがあり、これが味わいにつながるんですよ」。厚さを均一にしてまっすぐ削るのは難易度の高い工程ですが、いとも簡単そうに削っていく様子は、まさに職人芸。動画でその様子をご覧いただけます。


制作風景動画

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英一窯 市野英一さんにインタビュー

市野さんは、丹波焼の里「立杭」にある窯元で生まれ、大阪芸術大学を卒業してまもなく英一窯を開きました。「窯元として一本立ちするには、公募展で賞を取り、まずは名前を売ることが大事。なんとか入選・入賞を繰り返し、作った壺や大皿が百貨店や展覧会などでどんどん売れたときもありましたが、そんな時代も長くは続きません。需要がなくなりましたからね。やはり時代にあった物を作らないと窯元としては衰退するしかありません」

10年ほど前に神戸にあるホテルの料理長からの依頼で、レストランで使うプレートを作ったのが、食器を作るきっかけになったといいます。「普段遣いの食器は初めてでしたが、長年陶芸をやっているので、イメージさえあれば、形にはできます。ホテルの食器を作ってから自分なりに食器としての使いやすさを探求して生まれたのが黒と白のプレートです。

形や釉薬などによる風合いも理想とするイメージを頭に描き、こうしたらもっと面白いかなとか、使いやすいかなとか、試行錯誤して形にしていきました。時代にあった物を作るのは、売れている物を模倣するのとは違いますから、使う人を考え、自分で出来上がりをイメージして作ることがプロとして大切なこと。このプレートも、5年ほど経って釉薬のかけ方を変えてマイナーチェンジしています。『売れているからそれでよい』ではなくて、良い物をちゃんと作っていきたいですからね」。とてもシンプルなプレートですが、市野さんの熟練の技や想い、こだわりによって、他のお皿にはない風合いを醸し出しています。


英一窯

[住]丹波篠山市今田町上立杭2-21
Tel 079-597-3261

[時]10:00~17:00 [休]不定休