Books

偶然の出会いから、
好きなものや豊かな暮らしのヒントを

好きな作者や興味のあるジャンルの本を読むのも楽しいですが、
ふらっと立ち寄った本屋さんで、気になるタイトルの本を手にしてみる。
偶然の出会いから、好きなものが新たに見つかったり、豊かな暮らしのヒントを得たり。
そんな出会いが愉しめるブックストアをご案内します。


誠光社(京都市上京区)

「知らないものにふれて、それを持って帰るという知的な感動に価値を見出してくれる人たちのためのお店でありたい」。そう語るのは、誠光社の店主・堀部さん。器・雑貨のショップやカフェ、レストランが点在する京都御苑東側の静かな住宅街に佇み、素敵なデザインの本がずらりと並ぶ様子は、“本のセレクトショップ”という言葉がぴったり似合います。

小さな書店が成り立つ仕組みを

堀部さんは、国内でも有名な書店「恵文社 一乗寺店」の店長を務めたのち、2015年に誠光社をオープン。独立にあたって2つのことを組み立てたと話します。「1つは、経営が成り立つよう出版社と直接取り引きを行うようにしたこと。基本的に書店は取次を挟むのですが、直接取り引きを行うことで利幅が確保しやすくなり、小規模の出版社ともお付き合いできるのもメリットですね。業界が縮小・細分化していくなか、個人規模の書店・出版社が成り立つような仕組みとなりました」

嗜好品としての本をセレクト

「2つ目は、もともと自分がやりたかったコアな部分であるポップカルチャー全般を中心に本をそろえること。本を実用情報を得るためのツールではなく、あくまで嗜好品として捉えています。小説とか文学は全部そうですよね。実利のものではないので。実利のものじゃなければないほど、パッケージにもこだわっていたり、美しいものが多いです。こうした本を中心に並べると、本そのものがディスプレイになり、いい雰囲気が醸し出せます」

雑誌のように編集された本棚

大きな書店に行くと、コミックや小説、実用書がコーナーごとに分かれ、さらにテーマごとに分類されていたり、著者のあいうえお順で並べられていたり、膨大な本の中から目的のものが見つけやすいよう工夫されています。誠光社の本棚はこうした「能動的な本探し」ではなく、目的とする本はないけどなにか面白いものがあればという「受動的な本探し」に適した本棚となっています。「『これを読んでください』と推す力が強めですが、決して自分の趣味嗜好だけでセレクトしているわけではなく、うちのような書店に通っていただける架空の人格を想像してその人が選びそうなものを客観的にセレクトしている部分もあります。さらに、その本を情報に見立てて、並べ方や位置関係でメッセージを伝えるという雑誌を編集するように本棚に並べることで、受動的に知識を得られる場所になっていると思います」

珍しいリトルプレスや自社の出版物も

誠光社の本棚には、他の書店では見かけないリトルプレス(少部数発行の出版物)も扱われ、自社で出版した本も。「うちが好むような本の中には、読者が決して多くなく発行部数が少ないものもあります。リトルプレスだと単に珍しさだけで選んでいるわけではなく、編集力やデザイン力といったクオリティを見て置くようにしています。お客さんがパッと見て何か理解できるか、これを買ってどう楽しめば良いのかがわかりやすいことも重要視しています。自社で出版している本は、イベントを行い、その流れで作ることが多いのですが、いろんな方と関わることで数ある選択肢から本にするものを選ぶことができます。出版社がやらないことをやるのが、僕自身やお店の立ち位置と考えています」


誠光社 堀部さんセレクト
新たな年に読んでおきたい1冊

HERE(ヒア)

リチャード・マグワイア 著/大久保 譲 訳/国書刊行会

ユニークな手法でつくられた実験コミックです。映画「フォレスト・ガンプ 一期一会」のロバート・ゼメキス監督とトム・ハンクスが再びタッグを組み、このHEREを映画化。2024年に公開が予定されています。場所を主人公に、定点観測カメラのように同じ場所の様子が描かれ続けるのですが、ページをめくる度にタイムスリップを繰り返し、時系列ではなく、さまざまな年代がランダムに描かれています。読み進めると時間の感覚が歪むような不思議な体験ができ、新年に読むと楽しい1冊かと思います。
¥5,280

喫茶店のディスクール

オオヤミノル 著/誠光社

この時代いかにして「いいお店」が成立するのか。京都や倉敷などでカフェを営む著者が考える、痛快かつ深い喫茶・小商い論をまとめています。資本主義という今生きている社会状況を、ひとまずそこから外れて考える1冊となっていて、新年に改めて自分のものの見方を見つめ直すきっかけになるのではないかと思います。
¥1,870

富士日記

武田百合子 著/中央公論新社

随筆家 武田百合子の名著で、日記文学の秀作といえます。作家であり、夫の武田泰淳と過ごした富士山麓での13年間が克明に描かれています。世に発表するつもりで書かれていないものですが、ものすごい観察力と鋭い視点が感じられます。 SNSの普及で、人に見せるものばかりが価値のあるものとされがちですが、年の初めに「日記」というものを考えるきっかけになる1冊です。
上 ¥1,034/中 ¥1,056/下 ¥1,034


誠光社

京都市上京区中町通丸太町上ル俵屋町437
Tel 075-708-8340

[時]10:00~20:00

[休]無休(12/31〜1/3除く)

公式サイトはこちら


誠光社のある京都御苑周辺は
街タグvol.50でご紹介。

京都の市街地にありながら、穏やかで落ち着いた雰囲気が漂う「京都御苑・鴨川」周辺エリア。森林浴も楽しめる広々とした京都御苑をはじめ、路地裏にはセンスのよさが伝わる素敵なお店も点在しています。

京都の市街地にありながら、穏やかで落ち着いた雰囲気が漂う「京都御苑・鴨川」周辺エリア。森林浴も楽しめる広々とした京都御苑をはじめ、路地裏にはセンスのよさが伝わる素敵なお店も点在しています。


toi books(大阪市中央区)

「あまり本を読む習慣がない人でも『これならちょっと見てみよう、楽しいかも』と思ってもらえるような本棚を」と、toi booksの店主・磯上さんが語る通り、こちらの本棚にはユニークな仕掛けが。「夜に寄り添う」「誰もがみんな子どもだった」「それぞれの暮らし」「生きるということ」「今ここでない場所を想う」など、詩的で思わず気になってしまう32のキーワードごとに、古書が並べられています。

人と本をつなげる棚

toi booksを開業する前は、大阪・心斎橋の書店「心斎橋アセンス」で働いていた磯上さん。前職時代にキーワードごとに並べる棚をつくっていたそう。「あまり本に興味がない方がふらっと立ち寄ってくれたとき、どこを見て良いかわからない様子で、そのままスッとすぐに帰っていくことが結構多くありました。そういう方たちにも、ちょっと立ち止まってもらえるような棚を模索していました。そこで考えたのが、ビジネス書・文芸書といったジャンルではない、キーワードでつくった棚だと、気になる言葉があれば本を見てもらえるのではないかと。実際にやってみると、棚を見て楽しんでくださっている姿があり、その経験を今に活かしています」

書店が次々となくなる中で

磯上さんは、前職の書店が閉店することになり、toi booksをオープン。「もともと独立しようと考えていたわけではないのですが、今後を考えている間に自分にとって馴染みの本屋が次々となくなり、面白くないニュースが続いていました。その状況で自分が業界に残るのなら、一番面白がってもらえそうなことに挑戦しようと思ったんです。減っているんだから、たとえ小さくても書店が1軒増えたら、多少は面白がってもらえるのではないかと。この5坪の規模なら1人でなんとかやっていけるかなと思いました。前職の経験を活かすこともできるように文芸書中心のセレクト型のお店にして、イベントなども含め、よりダイレクトにおすすめできるようにしました」

新たな「問い」を与えてくれる本を

キーワードで区切られた古書の棚のほかに並べられた新刊は、店名の通り、問いを与えてくれる本がセレクトされています。「新たな問いを与えてくれたり、いろいろなことを考えたくなるような本が良い本だと考えているので、これらを感じられるものを選んでいます。また、話題書を除けば文芸書はなかなか売れづらいと言われます。けれど、当然話題にならない本のなかにも、とても良い作品はたくさんあります。自分の感触としては、『この本には、こういう魅力があるんですよ』ということをちゃんとおすすめできたり、その魅力が伝わるような棚づくりができれば、ちゃんと売れていくと信じています。toi booksはそれを実践する場所としても個人的には捉えています」

本の楽しみ方はいろいろ

本を読む習慣がなかったり、興味があまりない人に、本へのハードルを下げようと棚づくりに工夫を加える磯上さんはこう話します。「本を買ったらちゃんと始めから終わりまで読み切らないといけない、と身構える方が多い気がしますが、本はそんな不自由なものではないので、難しく考えなくてもいいと思います。気になった箇所だけ読んでもいいし、そもそも読む気分になれないときはいったん横に置いてしまえばいい。もっと気軽に本を手に取ってもらいたいです。たとえば『タイトルが気に入ったから』『デザインがかわいい』など、綺麗と感じた本を花を飾るように家のなかに置いてみたり。いろんな側面で本をみて、自分の楽しみ方を見つけてくれたらうれしいです」


toi books 磯上さんセレクト
新たな年に読んでおきたい1冊

ちょっと踊ったりすぐにかけだす

古賀 及子 著/素粒社

大人気となったウェブ日記が書籍化されたエッセイ。著者の古賀さんの日常は特別なことばかりではないですが、お子さんと過ごす日々がすごくみずみずしく描かれています。これを読むと暮らしの中で驚きや喜びを見出せるものはたくさん眠っていることが感じられ、自分でも新年を機に日記を書いてみようかなと思えるかもしれません。ユーモアにあふれた文章なので、ニコニコと気軽に読めるのも魅力です。
¥1,870

君は君の人生の主役になれ

鳥羽 和久 著/筑摩書房

学生など若い人に向けて、自分の主体性をちゃんと考えてから行動する大切さを説かれているのですが、自分と向き合うよいきっかけをつくってくれる本だと思います。 若年層向けの「ちくまプリマー新書」シリーズなので、易しい言葉で書かれており、普段あまり本を読まない人でも読みやすい。また、親御さんはもちろん、大人にもおすすめです。改めて、自分がどんな風に生きていこうか考えるきっかけを与えてくれます。
¥968

未来散歩練習

パク・ソルメ 著/斎藤 真理子 訳/白水社

韓国で注目を集める新鋭作家による小説。語り手である女性の主人公は、ソウルから釜山に近々引越そうと考えていて、釜山に行っていろんなお店を巡り、散歩して街を見たり。自分の近未来の練習をするという筋立てに、韓国の歴史的な事件が重なり合うストーリーとなっています。ごく自然に、過去と現在と未来を繋いでくれるような小説で、今までのこと、これからのことを考える年末年始に読むと、さらにしみじみと考えさせられるはず。
¥2,310


toi books

大阪市中央区久太郎町3-1-22 OSKビル204
Tel 050-5359-4448

[時]12:00〜19:00

[休]不定休

公式サイトはこちら


toi booksのある堺筋本町周辺は
街タグvol.47でご紹介。

大阪メトロ中央線と堺筋線が交差する「堺筋本町」は、商都 大阪の中核を担った船場に位置し、歴史情緒や問屋街の活気を感じることができます。新店が並ぶ大阪の注目エリア「丼池筋」などもあり、ゆったり散策するのにぴったりな街です。

大阪メトロ中央線と堺筋線が交差する「堺筋本町」は、商都 大阪の中核を担った船場に位置し、歴史情緒や問屋街の活気を感じることができます。新店が並ぶ大阪の注目エリア「丼池筋」などもあり、ゆったり散策するのにぴったりな街です。