Favorite thing

好きなことを大事に、
“自分らしく”暮らすために。

「これ!」と思える自分が好きなこと・ものを見つけたり、掘り下げたり、誰かと共有できると、“おうち時間”がもっと心豊かなものになるはず。今回は、「好き」を見つけて楽しむ達人で文筆家の甲斐みのりさんにインタビュー。前編では、好きなことの見つけ方や自分らしく生きるヒントをご紹介します。

文筆家 甲斐みのりさん

静岡県生まれ。日本文藝家協会会員。

旅や散歩、お菓子、地元パン、手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨などをテーマにした本を40冊以上も出版し、雑誌やwebメディアなどでも執筆。食・店・風景・人、その土地ならではの魅力を再発見するのも得意としている。著書に『歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ』 『たのしいおいしい 京都ごはんとおやつ』 『アイスの旅』 『たべるたのしみ』などがある。

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甲斐さんは「好き」を楽しむ達人

好きなことを題材にした本づくり

自分が好きなことを題材にした本を出版されている甲斐さんに、本づくりで一番大事にしていることをお聞きしました。「読んだ方が、自身の好きという気持ちを思い起こすことができる。そんな本をつくるためにも、私が本当にその題材が好きで、熱意を持って取り組めるかを大事にしています。たとえば、京都の本を数冊つくりましたが、メジャーな情報ではなく、自分が好きだと思える場所や物などを紹介しています。ニッチかもしれないですが、自分なりに深掘りして、数回ほど京都を訪れたことのある方に役立つ本になればと思ってつくりました。特に意識しなくても、自分自身に正直に、好きなもので本づくりをしていると、自然とそうなっていくんですよ」

身近に潜む楽しみを見つける

誰でも作れるものではなく、自分が好きなこと、自分にしかできないことを仕事にする。 そんな姿勢は独自の視点でつくられた著書を見るだけで伝わってきます。最近は、地方自治体の依頼で地域の魅力を見つめ直すパンフレットの制作も手がけているそう。「街を歩いて、街全体を見つめることがとても好きなんです。お菓子もパンも喫茶店も建築も、自分の好きな要素が街の中には詰まっているので。たとえ近くでも、知らない駅に降り立つと、心が浮き立ってきます。身近な場所に、ずっと長く続いているお店があるのに中を知らないことがありますよね。私自身も多いんですよ。 でも、思い切って、『ここに入ってみよう!』と一歩踏み出してみると意外な発見や出会いがあって、こうした楽しさが身近に潜んでいると思います」

好きなことを広く捉えてみる

中学1年生の時から本や雑誌をつくる仕事に就きたいと考えていた甲斐さん。上京してライターとして働く前に、京都で暮らしていました。祇園の料亭でのアルバイト経験が今も活きているといいます。「料亭でのアルバイトがもう楽しくて。知らないことを少しずつ覚えていったり、間違いに気づいたり、『明日はもっとよくなれる』と思いながら働いていました。もちろん、注意されることもありましたが、続けたいし、好きと思える仕事だったから、どんなことでも受け止められたんですね。『嫌なことや辛いことも含めて好き』と広く捉えると、いろんなことが乗り越えられると学びました」

早い段階で将来のやりたい仕事を見つけた甲斐さんは、好きなことを伸ばしてくれる家庭環境があったと話します。「両親が、若いうちはどんなことでも、より多くの経験をしてみた方がいいと言ってくれたり、苦手なことよりも好きなことを伸ばせばいいという教育方針がありがたかったですね。ただ、大学生の時に就活でどうしようと迷っているうちに、自分を見失うような感じでどんどん悩んでしまって…。そのときに、スケッチブックに自分の好きなものを書き出していったんです。すると、好きなものがいっぱいあることがわかって、だんだん自信がわいてきて、この延長上に本をつくる仕事があることにも気づきました。さらに、植草甚一さんや池波正太郎さんの本を読んで、いつか私も街歩きや雑学で本が出せる文筆家になりたいと思うようになって。東京へ行き、ライターとして下積み時代を過ごしたとき、大変なことが多かったですが、好きと思える仕事だったからこそ、挫折せずにやってこれたんだと思います」


甲斐さんの好きなもの

好きの基準は、作り手がちゃんと想像できること

郷土玩具が好きと話す甲斐さんは、こけしなどの“顔のある玩具”がお気に入りだとか。「玩具に描かれた顔を見ていると、いったいどんな人が作っているのか気になってくるんです。すごくキレイな線で描かれたものがあれば、ちょっと不器用なものもあって、その不器用な方に惹かれたり。すると、ますますこれを作った人はどうやってこの道をたどってきたんだろうと知りたくなって、実際に会いに行くこともあります。玩具の顔が作った人の顔になんとなく似ているのもおもしろいですね」

自分が可愛いと思うものを集める

『お菓子の包み紙』という本を出版するほど、包装紙に魅了されている甲斐さん。コレクションを拝見するとどれも個性的なデザインで、見比べていくうちにだんだん楽しくなっていきます。「どうしてこうしたデザインになったんだろうって知りたくなったり、自分が可愛いと思うものは取っておきたくなります。近鉄百貨店の包装紙が可愛いので、店員さんにそう伝えたら、『え?これが可愛い?』とびっくりしていました(笑)。郷土玩具もそうですが、好きなものについては、他人にどう思われるか気にせず、自分が可愛いと思えるかどうかが一番大事だと思っています」

最近気になっているのは「富士山」

静岡県富士宮市出身の甲斐さんは、地元のシンボルでもある「富士山」に、最近興味を持ち始めたそうです。「もともと富士山が好きなんですけど、仕事で3日間、地元の富士宮を巡る機会があって富士山世界遺産センターに行ったら、すごく勉強してみたくなって。信仰としての富士山とか、江戸時代と今では登り方も全然違うとか、資料を読み直してみたくなりました。すると、富士山型のお菓子や雑貨も気になりだして、ティッシュペーパーが三角になっているだけで富士山に見えたり(笑)。どんどんのめり込んでいます」


好きなことを見つけて楽しむために

甲斐さん流好きの見つけ方

好きなことがあるだけで自信につながる。そう話す甲斐さんに好きなことの見つけ方をお聞きしました。「ワークショップで行っているのが、ノートに好きなものを書き出してみる方法です。目に見えるもので探したり、記憶をたどってみたり、身近な人を思い浮かべてみたり、自分が好きだなと思うもので埋めていきます。大事なポイントは、いいところに目を向ける加点法で考えること。昔の私もそうだったんですが、ネットの評価に多く見られる減点法をしてしまいがちですよね。けれども、マイナスな発言を積み上げても、自分の好きという気持ちは膨らまないし、心豊かな気持ちにもなりにくい。好きを膨らませていきたいと気持ちを切り替えて、加点法にすると、生き方がもっと楽になりましたね」

甲斐さん流好きの育て方

好きなものがたった1つだけでも、その気持ちを育てることが大切だと甲斐さん。「好きなことが見つかったら、もっと知りたいし、なにも知らない自分にコンプレックスを感じますよね…。でも、とにかく自分なりに調べて勉強していました。フランス映画を好きになったら、上映会やトークショーに通ったり、本や雑誌を読んだり。最近、友達に勧められて見に行った落語と講談が好きになったのですが、まだまだ理解しきれていなくて。でも、場の雰囲気が好きで、観に行くとやっぱり楽しい。同じような熱量のある友達が1人でもできると大きいですね。若い頃に私は文通をしていて、今ならSNSがあります。つながりができれば、知らないことを教えてもらえますし、好きなものが広がっていくので、共有しあえる関係も大事だと思います」

「好き」を探求する第一歩の踏み出し方

好きなこと・ものが見つかっても、なかなか一歩踏み込めないときがあります。そんなときに甲斐さんはどうやって第一歩を踏み出すのでしょうか。「もし恥ずかしいという気持ちがあるなら、自分の感覚を信じて胸を張って好き!と踏み込めばいいと思います。私も、躊躇してしまうこともありますよ。行ってみたいお店の前まで来たものの中は常連さんがいっぱいで入りづらい…。でも、『次来たときにはなくなっているかもしれない』と言い聞かせて、自分で自分の背中を押して入ることも。好きなクラシックホテルのバーで、なかなか入りにくいときは、思い切って『すみません、初めてなんですけどいいですか?』とか、もう最初から『私、全然慣れていなくて』と伝えると、お店の方に優しく対応してもらえるので、正直に伝えるようにしています」


身近なところで旅気分を楽しむ

甲斐さんは、ご近所や仕事の出先でも、旅行しているかのようにさまざまな発見を楽しまれています。「建築や壁画など好きなものを見つければ、写真を撮っていますね。特に目的なく散歩する時は、あえて下調べし過ぎないようにしています。隣町へスマホを持たず、地図を見ずに行くと、『この道を行ったらここに出るのか』という発見があって面白かったです。 住み慣れた街でも1本道を逸れるだけで、知らなかった景色が見えることも。 『何もない』と言われる街でも、面白いお店の看板を見つけたり、神社があればここからこの街が発展したんだなと考えたりするだけでも、楽しいですよ」