Japanese tea

オーガニックの日本茶を丁寧に愉しむ

海外での緑茶人気が高く、国内でも国産のお茶を見直す動きが活発です。新茶の季節に、美味しい日本茶を味わいたい。そんなときに訪ねてみたいのが、京都にある「冬夏 tearoom toka」。オーナーの奥村文絵さんに無農薬無化学肥料でつくられた日本茶の魅力、お茶をより美味しく味わう秘けつをお聞きしました。


日本茶の魅力に出逢える場所へ

趣深い日本家屋で人と日本茶がつながる

京都御苑の東側、静かな住宅街の一角にある「冬夏 tearoom toka」。築100年を超える日本家屋は、趣深い隠れ家のような佇まい。日本茶の魅力に惹かれたオーナーの奥村さんが「日本茶を新しい場所へ」とティールームをオープンしたのが2015年。「ドイツ人の夫が淹れてくれた日本茶が美味しくて驚いたことがあります。毎日飲んでいるお茶なのに、実は知らないことばかり。いろいろと学んでいくうちに、お茶に携わる仕事がしたいと思うようになりました」と奥村さん。こちらのティールームは、かつての奥村さんのように日本茶のことを知らない人でも、その魅力に出逢える場となっています。

写真:太田拓実

静かにゆったり
オーガニックの日本茶を堪能

建物に入り、ティールームへ。栃の木のカウンターに、穏やかな間接照明、庭を望む窓。6席だけが配された空間は、お茶を愉しむこと以外の情報が削ぎ落とされ、凛とした空気が漂います。静かにゆったり、お茶と向き合う時間が用意されています。

目の前で丁寧に淹れられる豊かな時間

メニューは、ひとつの茶味をじっくり堪能する「波自 haji」、2種類を飲み比べる「白土 hakudo」があります。奥村さん自ら農家のもとを訪ねて吟味したオーガニックの日本茶が10種類以上もラインナップ。どれを選んでよいか迷うときには、スタッフに好みなどを伝えれば、おすすめのお茶を選んでもらえます。また、こちらの大きな魅力は目の前でお茶を淹れてもらえること。お茶の個性を引き出す淹れ方を眺めながら、至福の一杯を待つ時間はなんとも贅沢。

お茶請けのオーガニックカカオと共に

「冬夏 tearoom toka」のもうひとつの魅力は、お茶とのペアリング。お茶請けにオーガニックカカオや朝生菓子が用意され、 「波自 haji」はいずれかを選び、 「白土 hakudo」はその両方を味わえます。初めての人はぜひオーガニックカカオを。奥村さんが「出会ったときは衝撃的でした。足繁く通って、ようやくティールームで出せることに」というカカオは、ハワイにある1つの農園で採れた単一品種だけでつくられたもの。乳製品を一切加えず、チョコレートとはまた異なる自然な甘味やほどよい苦味が絶妙です。


オーガニックの日本茶。
その魅力とは?

海外でも注目されている「日本茶」

職人の手仕事を紹介するギャラリーの運営やフードディレクターとしても活動されている奥村さん。お茶で世界とつながることができると語ります。「イギリスには紅茶が、中国にもさまざまなお茶があって、源流をたどっていけば日本茶も世界とつながっていきます。こちらを訪れるお客さまの半分は海外の方で、多様な食文化を経験し、日本に来たら日本茶を飲みたいという方ばかり。そして、帰国してから日本茶の魅力を周りの方にも薦めてくれるので、日本茶が世界で注目されるのも自然なことだと感じています」

お茶を飲むことは自然を飲むこと

奥村さんはもともとオーガニックへの関心が高かったといいます。「お茶づくりは収穫した生葉をそのまま加熱してつくるため、洗浄という工程がありません。茶葉はもちろん、茶畑とその環境、栽培条件も丸ごと水に溶かして飲んでいることになります。害虫と益虫が同居できる圃場(ほじょう)を耕し、今日よりも健康な明日の自然を育む茶農家の存在に光を当てること、それを次の世代にリレーすることが私たちの役目だと考えています。人間もまた自然の一部なのですから」

手間を惜しまない生産者の結晶

勾配が急な茶畑で丹念にお茶を育てる。奥村さんは、実際に農家を訪ねて仕事ぶりを見聞きして、その大変さを痛感。「ペットボトルなどの飲料用や輸出用もあり、お茶の生産量は増える一方で、生産農家は年々減り、高齢化も進んでいます。多様な品種を守り、美味しいお茶を育てる農家さんは、大事な技術の後継者です。だからこそ、生産者さんの仕事の結晶であるお茶それぞれが持つ個性を、装飾することなく代弁者として、皆さんにご紹介していきたいと考えています」


日本茶をより美味しく
愉しむために

お茶の個性を活かして丁寧に淹れる

日本茶を堪能しながら、お茶の淹れ方を教えてもらえるのも「冬夏 tearoom toka」 を訪れたい理由のひとつ。お茶の個性を活かすため、まずは実際に、茶葉に合わせた淹れ方をスタッフと探求。こちらで販売されている茶葉のパッケージ裏には「淹れ方のコツ」として、茶葉の量や湯量・湯温などが丁寧に書かれています。その中でも冬夏流の基本的なセオリーを教えてもらいました。

飲んだお茶が印象に残らないのは使用する茶葉の量が少ないことが考えられます。こちらではお茶の個性がわかるように、一般的によいとされる量の倍を使っているそう。「あらかじめ温めておいた茶器に茶葉を入れて、しばらく置いて蒸します。湯気に溶け込んだ茶葉の香りはなんとも言えません」

お湯は万遍なく茶葉にかかるよう淹れます。沸かしきったお湯を冷まして淹れるのも大切なポイント。「沸騰させることでお湯がまろやかになり、茶葉の奥まで水分が浸透しやすくなるため、茶葉の個性を十分に引き出すことができるのです」

茶葉が針状の蒸し煎茶であれば、1煎目は低めの湯温(およそ37〜40℃)がおすすめ。「急須にお湯を入れたら、あまり時間をおかずに淹れましょう。茶葉の外側にある繊細な香り・甘味・旨味を抽出するイメージですね。湯量も茶葉が浸る程度に少なめにし、やや濃い目の味を楽しんでみてください。2煎目から湯温を上げて、茶葉の細胞にじんわりお湯が浸るように。冬夏で扱っている茶葉は10煎くらいまで味わえますが、湯温を徐々に上げることで深部の茶味を引き出すことができます」

お茶ごとのポイント

煎茶(温)・・九州産のお茶に多い「釜炒」は、文字通り釜で炒っているため、繊維が堅く締まっており、1煎目でも70℃くらいの高めの湯温に。

煎茶(冷)・・水出しも美味しいですが、氷出しもおすすめ。茶葉の上に氷を置いて溶け切るのを待つだけ。少量の茶葉でも目が覚めるくらい美味です。

ほうじ茶・・・強火で焙じることで茶葉が香ばしく、非常に乾燥しているので、沸騰したてのお湯で淹れるのが最も美味しい淹れ方。

茶葉の個性を知る

日本茶のバリエーションは無限にあり、同じ品種でも仕立て方が違うと味の印象も変わります。

●玉露やかぶせ

茶畑を覆い遮光することで茶葉に旨味成分を蓄えさせたのが「玉露」。渋味も少なくなるため、甘くてまろやかな味に。遮光する期間が玉露に比べて短く、味わいは煎茶と玉露の間に位置づけられるのが「かぶせ」です。

●在来種 無施肥

玉露やかぶせの対局にある、あるがままのお茶。品種名のない、自然交配した実生の在来種で、肥料を与えず育てられ、自然な甘みと旨味のバランスが愉しめます。
「初めての方におすすめしているのは、在来種 無施肥のお茶です。お茶のルーツに近い自然仕立ての味で、これを飲むとお茶の味がどうデザインされているのか、普段飲んでいるお茶や気になっているお茶との違いがよくわかります」

お茶を引き立てるお供

お茶請けにカカオを用い、新たな日本茶のペアリングを模索。その内容はとてもユニークです。「こちらで扱っている宮崎在来種の釜炒茶は、スパイシーな後味があり、エスニックな料理にもぴったりです。やぶきた種の無施肥はクリーミーな旨味が感じられ、おすすめのペアリングはキノコとシナモンの小さなリゾット。和食や和菓子に合うのはもちろんですが、日本茶はこうじゃなきゃいけないという固定観念をなくして、もっと自由に愉しんでみてください」


写真:太田拓実

冬夏 tearoom toka

京都市上京区信富町298
Tel 075-254-7533

[時]11:00〜18:00(17:30 LO)

[休]火曜・水曜

[料]波自 haji(お茶1種+お菓子1種)2,100円
白土 hakudo (お茶2種+お菓子2種)3,900円

茶葉や茶器などを公式サイト内のオンラインショップで購入できます。

公式サイトはこちら