Art&Craft
美しく独創的なアート作品やユニークで味わい深いクラフト・ワークも手がけるSHOBU STYLE(鹿児島市)。「布」「土」「木」「和紙・絵画造形」の4つの工房に分かれ、作り手の個性を活かした制作が行われています。独自の世界観とスタイルを持ってものづくりを行うSHOBU STYLEの工房を、2回にわけてご案内します。
坂元 郁代
国内外のメディアでも取り上げられている「布の工房」の作品。国内のさまざまな美術館やギャラリーなどで展示され、その独創的な作風が話題になることも。思わず目を奪われる斬新な色使い、細やかな糸使いで生まれた緻密な模様。意味などを考える前に、「きれいだな」「どうやって作ったんだろう」と引き込まれてしまいます。
「布の工房」は、もともと大島紬や縫製、刺し子の下請け作業所としてスタート。その後、下請け作業をやめて、 裂き織り・刺繍をメインとするオリジナルの作品づくりを行うことに。中でも、刺繍(縫い)は「nui project」と命名され、多くの作品を世に送り、独特の縫いの世界を創り上げています。
写真の作品を制作する坂元 郁代さんは、 nui project誕生のきっかけともなった作家。 nui projectをとりまとめる福森順子さんはこう話します。「下請けの作業所として縫製は“まっすぐ縫う”ことが当然のように求められます。ある時、作業所のみんなにもっと自由に、好きなように縫っていいですよって話したら、坂元さんが写真のような作品を創り上げたんです。まっすぐ縫うことよりもすごいものができる。そう感じて、自由な刺繍を行うスタイルへと転換したのです」
吉本 篤史
吉本 篤史
吉本 篤史さんの制作スペース
吉本 篤史さんの制作風景
制作現場そのものをアートとして展開する吉本 篤史さん。もともと、小さな糸玉を布に縫いつける作品を制作していましたが、現在はオーガンジーといった柔らかく透明感のある布を小さく切り、その端を折って糸を縫いつけ、糸を通した大量の小さな布を床に並べるスタイルに。年末年始の休み明けから1年にわたって縫い続け、 次の年末年始の休みが来たら制作はいったん完了。作品は1年に1点というユニークな方法で生み出され、美術館やギャラリーから展示依頼が来ると、制作現場の様子を再現したインスタレーションとして展開されます。
高田 幸恵
高田 幸恵
独自の色彩感覚と大胆な構図が印象的な高田 幸恵さんの作品。 布全体を刺繍で埋めるダイナミックな作風で、針が進むごとに模様が小さく緻密になっていき、大胆な構図の中で繊細な模様を愉しむことができます。
前野 勉
前野 勉
nui projectのベテラン作家・前野 勉さんは、ふわふわと柔らかな質感を持つ作品を生み出しています。やさしい風合い通り、縫い方はゆっくりマイペース。縫った上をまたさらに縫ったり、糸を切るときに布も一緒に切ったり、一見正しくないように見えるスタイルが、独自の作品づくりへつながっているのだとか。
おおよそ20人ほどが制作する「布の工房」。 nui projectとして針と糸から独創的で多彩な作品を生み出すだけでなく、裂いた布を横糸として織り込む「裂き織り」も行われています。工房内は静かで、作り手の皆さんは黙々とマイペースに刺繍や織りを行っています。
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個性的なデザインのバッグやオリジナリティあふれる刺繍が施されたシャツなど、 SHOBU STYLE独自の魅力がつまったクラフト・ワークを展開。布の工房で制作された一部の作品はWebショップにて不定期で販売されます。販売の詳細はメール(web-shop@shobu.jp)にてお問い合わせください。
SHOBU STYLEは、鹿児島市にある社会福祉法人太陽会しょうぶ学園が運営する障がい者支援センターです。新たな福祉デザインとして、障がいを持つ方たちが、地域社会でよりよく暮らせるための環境づくりやサービスを展開しています。2013年には「公共のためのサービス・システム」というカテゴリで、グッドデザイン賞を受賞。障がいの有無、支援する人・支援される人といった垣根を超え、ものづくりを通じて、個性や創造性を引き出しながら協働し、喜びを共にできるコミュニティづくりをめざしています。
アート作品は展覧会やギャラリーなどで、クラフト・ワークは雑誌などのメディアでも紹介され、アメリカやイギリスでも販売。音パフォーマンス otto & orabuは大手アパレルブランドのCMのBGMに起用されるなど、利用者と職員による多彩な表現活動が世の中に広がりを見せ、注目されています。統括施設長の福森伸さんは今のSHOBU STYLEに行き着くまで、長年の葛藤や模索があったといいます。
「もともと大島紬や園芸などの下請け作業所があり、園内で家具などを手がける木工班もつくって、職員が指導しながら利用者が“ちゃんとしたもの”を作れるようにサポートしていました。ところが、利用者は木工であれば削る必要のない所まで削ったり、縫製ならまっすぐ縫えなかったり、何度同じことをお願いしても『わかった』と返事はくれますが、同じ失敗の繰り返しでした」
福森さんの妻で統括副施設長の順子さんは、こうしたやり方に疑問を感じるようになり、下請けをやめて 「nui project」を立ち上げました。「私自身、子どもの頃から親にちゃんとしなさいって言われて物を作るのが苦手でした。だから、できないことを指導し続けて、職員と利用者の関係性が悪くなるより、好きなことをして楽しんでもらうほうがいいのではと思い、そうしたんです。すると、すごい作品ができあがって。それからは下請けはやめて、職員が利用者が好きな素材を用意し、好きなように縫ってもらうようにしています」
徐々に、“ちゃんとしたもの”を作るサポートから“できることや好きなこと”にフォーカスした工房へと転換し、作品の展示会は「障がい者」「支援施設」といったフィルタのかからないように開催して、制作活動の質を高めていったそう。現在は、利用者が自由に好きなものを作り、そのまま作品として世に出せると判断したものは、アート作品としてリリース。仕上げに職員のフォローが必要なもの、器や家具など技術的に難しいものは専任の職員がベースを作り、利用者が装飾してクラフト・ワークの商品として販売しています。
施設長の福森さんは、アートもクラフト・ワークも、あるこだわりがあると話します。「利用者の制作方法は、一般的に邪道とされるものもあります。たとえば、木の板にひたすら傷をつけていく利用者がいます。普通なら傷をつけるのはよくないと考えますが、この傷のついた木も活かし方があるのです。ある時、傷のついた器で酒を呑んだら、とても美味しくて(笑)。大事なのは傷ではなく装飾ととらえることだと気づかされました。利用者が自由に表現したものをいかにして世に出すのか、この点を職員に考えてもらうようにしています」
泰良 茂雄
1990年に設置された「土の工房」では、利用者の個性や好みに合わせて陶のボタンや食器、オブジェなどを幅広く制作しています。職員は陶芸家のもとで技術を学び、ろくろを回したり、型でお皿をつくるなど技術的な部分を担い、絵付けなどの表現部分は利用者が担当。利用者も職員も、それぞれの特性を活かして、制作に取り組んでいます。
写真の作品を手がける泰良 茂雄さんは、動物のオブジェを中心に制作。ユニークな表情を創るおもしろい作風で、定期的に作られるオブジェは人気商品のひとつに。職員の福森 創さんによると、「失敗した粘土を土に戻す作業も担当してもらっていて、失敗した粘土は一度団子状にするのですが、泰良さんはいつも同じ大きさと重さの団子が作れるんです」と、職人的な感覚も持っているそうです。
森 節子
オブジェ制作のほか、刺繍や絵付けなどもできる多才な森 節子さん。以前は大きなオブジェを作っていましたが、現在は足が不自由になり、座ったままでもできるお面などを制作。創作意欲にあふれた作家さんです。
南 裕貴
南さんは手先が器用な若手作家。プラモデルのように粘土を扱い、10cmほどの車を400台以上も制作。鹿児島のジャーナルスタンダード内で開催された初めての個展も好評だったとか。
「土の工房」では、15人ほどの利用者と3人の職員が活動しています。ボタンをつくる、オブジェをつくる、職員の補助的な作業など、それぞれ利用者に合った作業を行い、その中で作家も一緒になって制作に取り組んでいます。また、工房内には2つのガス窯を設置。釉薬をかけたり、焼き上がりまでの工程は職員が対応されています。
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表現力の高い利用者と技術をカバーする職員の協働で生まれるオブジェやボタン、器などはクラフト・ワークとして展開。2ヶ月に1度のペースで焼き上げ、一部の作品がWebショップにて不定期で販売されています。販売の詳細はメール(web-shop@shobu.jp)にてお問い合わせください。
SHOBU STYLEの工房を垣間見ると好きなことに没頭する時間がうらやましく、なにかを作ってみたくなります。とはいえ、うまく作れなかったらどうしよう。そんな不安が頭をよぎります。日々、工房で過ごす SHOBU STYLEの職員さんはどう感じられているのでしょうか。
職員の福森 創さんは、「なにか作り始めるとき、なにを作ろうか考えたり、作ったあとのことを考えて迷ったり、評価も気になって躊躇しますよね。でも、利用者を見ていると、どの工房でもみんな思い切りがよくて、躊躇がなく自信満々。作ったものがどう評価されるとか、売れるのかとか関係なく、ただ好きなことに没頭する。その姿を見ていると、なにを作ってもいいんだって感じます」
デザイン室の榎本紗香さんは、自己満足の世界を楽しむことが大事と話します。「自己満足の世界って誰にも迷惑かけないし、責任も負わなくていいですし、そこを楽しめるようになったらすごく素敵。アート作品として他人に見せるとなると大変ですが、自分が楽しむ分には、自分がアートだと感じたものはどんなものでもアートになる。利用者の制作を見ていたらそう思いますね」
施設長の福森さんにもお聞きしました。「商品化やアートとして評価を得るためではなく、ただ自分のためになにかを作りたいとなったら、もっと自由になるべき。僕は社会で刷り込まれた固定観念や周りの影響をシャットアウトするようにしています。ポイントは、他人の評価を気にしないこと。どうしても自分の学んだことや経験から評価を気にしがちですが、気にしないことを徹底します」
利用者は、アートとしての評価や商品としての価値を考えることなく、ただ好きなことに没頭し、あっと驚く表現力を発揮。職員は、利用者が制作しやすい環境を整え、利用者の表現力を社会へとつないでいく。このどちらが欠けてもSHOBU STYLEは成立しません。
施設長の福森さんは「利用者と職員は必ずしも同じ目的を持っておらず、同じ方向には向いていません。利用者は“無欲であるがまま”、職員は“ちゃんとした商品を作りたい、もっと上手になりたい”と、互いが自然にわき出る感情のままに取り組んでいます。この相反するもので成り立っているのが、SHOBU STYLEのおもしろさでもある」と語ります。
一方、副施設長の順子さんは異なる意見。「私の中では同じ方向を見て取り組んでると感じています。きっちりしなければいけない、というものから解放されて、これでいいんだっていう安心感や楽しさがあるんです」。障がいの有無、異なる考え方やスキルを持った人々がひとつのコミュニティの中で、共につくる喜びを味わっていく。誰にとっても居心地のよい場所であること、その懐の深さが、多彩な表現活動を支え、SHOBU STYLEの魅力を生み出しているのでしょう。
[住]鹿児島県鹿児島市吉野町5066
Tel. 099-243-6639
●新型コロナウイルス感染予防のため、工房内の一般見学は休止しています。