Project 04 「鉄道高架下」×「ガレージハウス」

未利用地の鉄道高架下に
新たな可能性を見出すプロジェクト

近鉄不動産では、自社およびグループ会社が所持する未利用地を有効活用すべく、ガレージと住居が一体となった賃貸物件・ガレージハウス事業を展開しており、2016年に弥刀、2018年に藤井寺の計2物件を建てている。そして次の3物件目に候補として挙がったのが、近鉄奈良線「河内花園」駅東側。これまでの2ヵ所と比べ、大きく異なるのは、鉄道高架下に建設するということ。ただでさえ珍しい高架下の賃貸住宅である事に加え、ターゲットが絞られるガレージハウス。近鉄不動産が仕掛けた斬新なプロジェクトを成功へ導くために奔走する2人の若手社員に迫る。

MEMBER

プロジェクト企画部

丹田 千晴

2018年入社

事業開発本部 技術部

筏 譲史

2019年入社

※部署は取材当初のものです

Story 01

ニッチなターゲット層に
アプローチする広告戦略の立案

丹田が本プロジェクトに参画したのは、鉄道高架下にガレージハウスを建てることが決定してからのことだった。「最初、高架下に住宅を建設することに戸惑いはありました。しかし建設予定地は河内花園駅まで徒歩4分である事のほか、大阪府の大動脈とも言える大阪中央環状線へ車で3分という場所に位置しています。鉄道、車ともに利便性の高い好立地にあることはもちろん、ロードサイドにあることから視認性も良いため、店舗以外の用途の可能性を感じました」。
プロジェクト企画部に所属する丹田の役割は、満室稼働を実現すること。立地だけを切り取れば入居希望者は集まりそうなのだが、そこにはガレージハウス特有の課題があった。
「ガレージハウスのターゲットは、30~50代の車が好き、もしくは趣味に没頭するためにセカンドハウスを探している層です。データとして需要があることは把握していましたが、ニッチな層に情報を届けるためにどのようなアプローチが最適なのか考えることに苦労しました。
私自身、車やガレージに詳しいわけではありませんし。そのため書店で車やバイク関連の雑誌を読み漁ったり、SNSで近しい情報を発信しているアカウントをこまめにチェックしたりと、まずは参考となるアイデアの収集に取り組みました」

本プロジェクトは関東を中心に数多くのガレージハウスを展開しており、鉄骨むき出しのデザインなど独自性から多くのファンに支持されているLDK社との共同企画である。丹田は広告宣伝に関してもLDK社とタイアップを図った。
「LDK社が運営するSNSを通じてのPRは反響がありました。そのほか雑誌への出稿、プレスリリースの配信、専用HPの開設など、さまざまなメディアを通じて、ターゲット層にアプローチを図りました。意外だったことは、現地に置いていたチラシからの問い合わせが多かったことです。地域住民の方々も高架下のイメージがガラっと変わることに期待してくださっていると思うと嬉しいですね」。
プロジェクトに参画した当初は、鉄道高架下の賃貸住宅物件に需要があるのか少しの不安を感じていた丹田だが、確かな手ごたえを掴んでいくとともに、前向きな気持ちに変わっていったという。竣工が近づくにつれて周囲の期待がどんどん高まる一方、建築担当を務める筏は、前例のない鉄道高架下ガレージハウスの具現化に向けて奔走していた。

Story 02

いくつもの制約をクリアして、
理想のガレージハウスを実現

鉄道高架下ガレージハウスの構想が固まったあと、いよいよ建設に向けて本格的に着手するフェーズに移った。建設全般を推進するのは技術チームであり、その渦中に入社3年目の筏がいた。
「河内花園駅東側の高架下は、ガレージハウスを建てるうえで高さ・幅ともに条件を満たしていました。しかし、高架下という制約の多い特殊な立地条件ゆえに、クリアしなければならない課題がいくつかありました。ひとつは上に鉄道が走っているということです。施工途中はもちろん、竣工後も事故等が起こると、路線がストップしてしまう可能性があります。
つまり万が一の際の影響が非常に大きいんです。そのためガスを使用しないという事であったり、火災に強い建物とするため、耐火性の高い外壁を使用したりと、細心の注意を払う必要がありました。また高架下の地中には地中梁などの高架躯体が埋没されています。それらの高架躯体に対する荷重影響や安全性の検証を行うことも必須でした。」

ガレージハウスと高架橋、互いの構造物の縁を切る意味でも、建物をしっかりと支持する地盤を形成することで、ガレージハウスが高架橋に与える影響も防ぐことができる。その地盤改良工事を実施するために、筏は構造設計者と密にコミュニケーションを取った。
筏が関わったのは構造設計者だけではない。計画チーム、施工チーム、そしてデザインを手がけるLDK社など、プロジェクトに関わるすべての人と意見交換を図り、全員が同じベクトルを向くように努めた。プロジェクトを円滑に進める調整力が養われた一方で、筏は自分のアイデアを発信することも心がけていた。
「本プロジェクトは遵守しなければならない制約が多かったですが、そこばかり意識してしまうと、デザインが疎かになってしまいます。お客様が期待されているガレージハウスは、あくまでもカッコイイ建物です。
テーマであったインダストリアル感を演出するために、意匠性の高い外壁材やインテリアを選定しました。候補となる材料を使用した物件を実際に見に行ったり、いくつもの外壁材のサンプルを作成したり、その過程は一筋縄ではいきませんでしたが、随所に私の想いが散りばめられたガレージハウスになったと思います」。

Story 03

本プロジェクトで培ったノウハウを
次なる高架下開発に活かす

鉄道高架下ガレージハウスは2022年3月に竣工する予定だ。このインタビューを実施したのは2021年12月。計画チームの丹田は、今後、見学会などを通じてお客様と直接コミュニケーションを取ることが楽しみだと言う。
「広告宣伝が功を奏し、おかげさまで予想以上の反響があります。これまで私はオフィスや飲食施設の計画に携わっており、お客様は法人でした。本プロジェクトで初めて個人のお客様と関わるため、法人とは違う難しさもあるのかなぁと考えていますが、建物の良さを最大限にお伝えできるようしっかり準備して見学会に臨みたいですね」。
対して筏は工事がスタートした現在、足繁く現場に通っている。「今はとにかく進捗確認に力を注いでおり、遅れが生じていたら施工チームにお願いするなどして、スピードアップをしていただいています。申し訳ない気持ちは山々ですが、工期をずらすことはできませんので。そういったこちらの要望を聞いてくださるように、現場の意見にもしっかり耳を傾けるように努めています。施工チームとの信頼関係の重要性を肌で感じていますね」。

最後に本プロジェクトに関わった2人の今後の目標について聞いてみた。「グループ会社の近畿日本鉄道は、路線のうち約43kmが高架です。高架下は未利用地が多く、有効な活用方法は近鉄グループのさらなる発展にとても重要だと考えています。
今回の鉄道高架下ガレージハウスは、近鉄にとって初めての取り組みです。本プロジェクトが成功することで、高架下の可能性はまだまだ広がっていくと思いますし、すでに別のエリアでもガレージハウスを建ててほしいという声をいただいています。ぜひ今回の成功体験を次のプロジェクトに活かしていきたいですね」(丹田)。
「本プロジェクトを通じて、私は難しい空間を活用するノウハウを蓄積することができました。そのノウハウは私自身だけでなく、総合デベロッパーである近鉄不動産としても他社にない大きな強みになると考えています。これからはガレージハウスのみならず、高架下に思いもよらぬ建物を建てるプロジェクトが構想されたときに、「できますよ」と言えるような人材になりたいですね」(筏)。
鉄道高架下に新たな価値を見出すきっかけとなった本プロジェクト。このガレージハウスを皮切りに、近鉄不動産はこれからも斬新なチャレンジを続けていくだろう。