Folk & Art
暮らしの道具でありながら、その美しい造形に気持ちが弾んだり、
手馴染みのよい使い心地に愛着がわき、一生使い続けたくなるもの。
こうした逸品と出逢い、暮らしに取り入れることで心豊かな日常が過ごせるはず。
そんな暮らしのヒントを、東京・高円寺にあるMOGI Folk Artで探りました。
2022年10月、東京・高円寺にオープンしたMOGI Folk Art。BEAMSのバイヤーとしてロンドンを拠点に、長年にわたって活躍してきたテリー・エリスさんと北村恵子さんが開いたショップで、国や時代にとらわれない、さまざまな家具や器、洋服、アートが店内に並んでいます。特に目を引くのが、手仕事でつくられた器など民藝の品々です。
民藝好きの人なら馴染みのあるエリスさんと北村さん。“デザインとクラフトの橋渡し”をテーマにするBEAMSのレーベル「fennica」のディレクターとして、民藝運動とも深く関わりのある地域を中心に日本各地の工芸品を、ファッションや北欧インテリアと組み合わせながら紹介し、世に広めてきました。
そのきっかけは、90年代に日本民藝館の館長であった柳宗理さんとの出会いだったそう。「柳さんにお会いするために訪ねた日本民藝館で、年に一度の公募展『日本民藝館展』が開かれていて、こういうものがまだ日本でこんなにたくさん作られているんだと驚きました」とエリスさん。それからいくつかの作り手の元を訪ね、話を聞いているうちに、「世の中に知られていないのはもったいない、こういう手仕事を少しでも多くの人に見てもらいたい」と感じるようになったと北村さんは話します。
「当時、ビームスモダンリビングというレーベルを立ち上げ、北欧のものを中心に扱っていたのですが、日本のものはほとんどなかったんです。そこに、どうやって民藝の器などを合わせていくか。誰もやったことのないスタイルだったので、北欧のものともミックスできるよう窯元さんと相談してデザインを絞り込みました。たとえば、沖縄の器は柄をなくしてみたり。ベースにある独特の形や色だけでも十分に素晴らしいもので、本当に良いものだったからできたことです」
民藝を扱い始めた当時、あまり目にする機会がなかったからこそおもしろかったとエリスさん。「流行りのど真ん中を紹介したり、ただ単純に新しくて珍しいものを紹介するのが私たちの仕事ではないと考えていました。『もっと面白いものがあるよ』という提案をずっとやってきたので。また、当時はミニマリズムなどシンプルなものが格好いいとされていましたが、民藝などの手仕事はもっとゆるやかなデザインで、全く違うもの。そこに私たちはおもしろさを感じて引き込まれていきました」
北村さんも「BEAMS時代から今も変わらないのは、まず自分たちが使いたいか、暮らしの中でそばに置きたいかを一番にしていること。売れるかどうかより、まず自分たちが本当にこれが好きなのかという観点で、扱う品を決めています」
伝統的な技法やモチーフを活かしたオリジナルの別注品が並ぶMOGI Folk Artの店内。伝統工芸や名品を現代的にアレンジしたり、作り手の代替わりなどで無くなってしまったデザインを復刻したり。作り手と長く付き合い、信頼関係をベースに面白いアイデアを出し合って新たな品が生まれるそう。北村さんは「作り手にとって、それまでやっていないこと、いつもと違うことをするのは大変ですが、おもしろいと感じたら少量でも対応してくださり、とても有り難いです」と話します。
かつて沖縄の作家さんが手がけ、今はつくれなくなってしまった器「ジグザグ」を復刻。沖縄で陶芸を学んだ益子のキマノ陶器に依頼して独特の形はそのままに、益子の土を使って作られています。
小4,400円 大6,600円
因州・中井窯の染め分け皿の別注品「ゆるゆる3色」(写真左)。民藝のアイコン的な器に新たな風が吹き込まれています。また、小鹿田焼の平皿もMOGI Folk Artの別注品としてクラシカルなデザインを復刻。
ゆるゆる3色8寸皿(約24cm)19,800円/小鹿田焼7寸皿(約21cm)4,400円
優しく淡い色合いと美しいフォルムが魅力的な延興寺窯のジャグ(写真左) は、酒器にもぴったり。小鹿田焼のジャグは、大阪中之島美術館で開催された後述の展覧会「民藝 MINGEI — 美は暮らしのなかにある」に合わせて別注。どちらもルーシー・リーやバーナード・リーチの影響を受けた持ち手のデザインが印象的。
延興寺窯ジャグ8,800円/小鹿田焼ジャグ6,930円
富山の伝統工芸「八尾和紙」をつくる桂樹舎のはがき箱と文庫箱。風合いがよく、印象的なデザインが施された桂樹舎の型絵染の和紙は全国でも人気を博しています。アフリカの柄から着想を得てデザインされた柄を復刻し、別注の箱としてつくられました。
はがき箱4,180円 文庫箱8,580円
店内には、エリスさんと北村さんが30年以上にわたって集め、実際に使い、薦めたいと思うものが所狭しと並んでいます。日本国内だけでなく、アフリカ、アジア、北欧のものが、時代やジャンルを超えてディスプレイ。2人のコレクションがそのままショップになっています。「染色家の芹沢銈介さんが世界の民藝が面白いということで収集し、日本のものとミックスして生活の中で使われていたのを知り、強く共感を覚えました。国・時代・ジャンルを超えて美しいと思ったものをミックスするスタイルは、自分たちの暮らしの中でもずっとやってきていて、このお店も同じですね」と北村さん。
お店の入り口は、ロンドンにある2人の自宅のバスルームを再現したという市松模様のタイルがお出迎え。デンマークのヴィンテージシェルフや李朝時代の箪笥だけでなく、無印良品のボックス棚も使われ、店内のインテリアはさまざまなテイストがミックスされています。また、お店の奥にはエリスさんが「家族のポートレートを表現した」と笑って教えてくれたアフリカのお面も。お面の棚には沖縄の器も飾られ、ほどよいアクセントに。
器も洋服もアートも一緒に置かれていることで、洋服を選ぶような感覚で器を選ぶことができます。こうしたディスプレイには「使い方や機能性ばかりに目を向けるのではなく、感覚的にいいなと思ったものを手にとってほしい」という2人の想いが込められています。
衣・食・住のテーマごとに「民藝」をひも解き、暮らしで用いられてきた美しい民藝の品々を紹介する巡回展「民藝 MINGEI — 美は暮らしのなかにある」。その中で、エリスさん・北村さんによる「これからの民藝スタイル」を提案するインスタレーション展示が行われます。実際に2人が収集し、生活で使っているものを“そのまま持っていった”そう。現代の暮らしの中に民藝を楽しく豊かに取り込んでいる様子を体感できます。
2024年2月10日(土)〜3月24日(日)東広島市立美術館/4月24日(水)~6月30日(日)世田谷美術館/以降、富山、愛知、福岡に巡回予定
ずっと使い続けたいと思える一生モノ。その目利きはどのようにしたら養われていくのでしょうか。北村さんはこう語ります。「自分が買えるギリギリの物を買うのが、とても良いんですよ。ちょっと無理をして買った物からは多くのことを学べます。苦労して買ったものって『なんで自分がこれが好きなのか?なぜ高いのに頑張って買ったのか?』と考えることができるし、『どうやって使いこなそうか?』『使っていないときはどうやって楽しもうか?』とかも考えるじゃないですか。これを繰り返していくうちに、どんどん目が鍛えられていきます。あと、自分の好きをすごく大事にした方が良いと思います。周りを気にせず、自分の目と心で判断するのが大切。やっぱり良いものは感動しますからね。こういう感覚は、とても大事だと思います」
エリスさんは、民藝といった手仕事のものを買うには今はとてもいい時代だといいます。「まず、良いものを作っている人たちがたくさんいますよ。これにはやっぱり波があるから、今はとても良い時期だと感じています。さらに、『この値段で?』というものが、民藝にはいっぱいあります。イギリスの友人の陶芸家は、 『ハンドメイドで薪窯で焼いて、どうしてこの値段でできるの?』って驚いていました。今は海外のお客さんがすごく増え、来る方はみんなびっくりされますよ。自分が良いと思ったものが、手の届く価格で買えるので、身構えずに手にとってみてほしいですね」
<Shop DATA>
MOGI Folk Art
東京都杉並区高円寺南3丁目45-12
Tel 080-8058-1761
[時]12:00〜19:00
[休]火・水曜