Masterpiece Chairs

名作椅子の魅力を座って体感

心地よく素敵な空間をつくる上で、とても重要な「椅子」。世の中にはさまざまな名作椅子があり、その魅力を座って体感できるのが、今回ご紹介する埼玉県立近代美術館です。常設展示されている名作椅子の一部をご紹介していきます。


椅子の美術館

1982年に開館した埼玉県立近代美術館(MOMAS)は、モネ、ピカソをはじめとする海外の巨匠から日本の現代作家まで、幅広い美術作品をコレクション。埼玉県内唯一の県立美術館として、埼玉にゆかりのある近代以降の作品も収集しています。また、埼玉を舞台に活躍した作家たちが影響を受けた、エコール・ド・パリと呼ばれる時代の藤田嗣治やシャガールの作品も所蔵しています。

※MOMASは、The Museum of Modern Art, Saitamaの略称です。

約70種類の椅子コレクション
その一部を常設展示し、自由に座れる

椅子の収集は、開館当初から続くMOMASの特徴です。コレクションは現在約70種類。近代以降の世界の名作を、時代や地域、作家に偏りが出ないよう選んでいます。そのきっかけは、初代館長・本間正義氏が、「美術作品は見て楽しむものでふれることはできない。椅子であれば実際に座り、素材、形を体で体感することができる」という点に着目したこと。優れたデザインの椅子を集め、館内に配して来館者に休憩に腰かけてもらう。そんな先見的な試みが現在も受け継がれています。

展示する椅子は、「今日座れる椅子」として紹介され、およそ3か月ごとに入れ替えられます。2階の展示室では、展覧会の雰囲気に合わせて担当学芸員が選び、1階ロビーでは色や質感のバリエーションを楽しめるよう、別の担当者が選んでいます。展示中の椅子は一部を除いてほとんどが座ることができ、名作の座り心地をその場で確かめられるのが、 MOMASならではの魅力です。


埼玉県立近代美術館 椅子コレクション

ボールチェア
エーロ・アールニオ[フィンランド 1963年デザイン]

フィンランドの家具デザイナー エーロ・アールニオの代表作です。1960年代に普及し始めた繊維強化プラスチックを用い、曲面ほど強度が増すという素材の特性を生かして、人がすっぽり入れる球体の椅子を生み出しました。1966年のケルン国際家具見本市で発表されると、新素材ならではの軽やかなデザインが世界の注目を集めました。深く腰かけると外の音が遠のき、その場にプライベートな空間が生まれます。座面は360度回転。白いシェルに黒い座面という配色は、アールニオが最も好んだ組み合わせといわれています。

※展示中のボールチェアに座ることはできません。

マリリン/ボッカ( 口 )
スタジオ 65[イタリア 1970年デザイン]

ハリウッド女優マリリン・モンローの真っ赤な唇をかたどったソファです。サルバドール・ダリがデザインしたソファ《メイ・ウェストの唇》へのオマージュといわれています。弾力のあるポリウレタンフォームでやわらかな大きな塊をつくり、そこにモンローのイメージを重ねています。源泉はシュルレアリスムで、さらにウォーホルらのポップ・アートの影響もうかがえます。合理主義のモダン・デザインへの反発が盛んだった1960〜70年代に登場し、新たな椅子の可能性を開いた一脚で、現在も子どもたちから大人気。

ガーデン:リトル・ツリー
ペーター・オプスヴィック[ノルウェー 1985年デザイン]

人間工学を踏まえつつ、慣習にとらわれない椅子を追い求めてきたデザイナー ペーター・オプスヴィック。「人はじっと座り続けるのではなく、絶えず姿勢を変えながら座っている」。そんな視点に着目した点が画期的でした。1980年代からは椅子の概念を超えた実験的な作品を手がけ、座るというより体全体を自由に動かしてくつろぐことをめざしました。木や森をイメージした《ガーデン》シリーズの一脚で、こちらの所蔵品は最も小型のもので、遊び心あふれるデザインが印象的。

ネルソン・マシュマロ・ソファ
アーヴィング・ハーパー&ジョージ・ネルソン[アメリカ 1956年デザイン]

ミッドセンチュリーを代表する名作で、最初期のポップ・アート的な家具のひとつともいわれています。直径約25cmの丸い「マシュマロ」クッションが18個並び、伝統的なソファをリズミカルな立体構成へと変身させました。ポップなフォルムが、見る人を楽しい気分にさせてくれます。クッションは組み合わせを変えることもでき、お尻にフィットする座り心地も絶妙です。

XL(プランクトン 1.8)
graf[日本 2004年デザイン]

大阪のデザインユニット grafによる現代の一脚。既存のシンプルな椅子「プランクトン」を1.8倍に拡大した、大きな木の椅子です。大きさゆえに、座ると誰でも足が床に届かず、ぶらぶらしてしまいます。「どんなに偉い人が難しいことを発言しても、足がぶらぶらしていれば偉そうに聞こえない」という、ユーモアとラディカルな発想から生まれました。どんな人が座っても、どこか子どものように見えてくる椅子です。

レッド・アンド・ブルー
ヘリット・トーマス・リートフェルト[オランダ 1918年デザイン]

モンドリアンの絵画を思わせる、デ・ステイルの理念を体現した名作として知られています。当初は色のない原型で、肘掛け椅子を線と面に分解して再構成する試みでした。リートフェルトが考案した、角材を直角に組む新しい接合法が用いられています。座ると、背と座面が体を支え、その力が水平・垂直の部材を通じて床へ伝わる感覚が味わえ、体と椅子がひとつの構造に溶け合うような安定感が印象的。


名作椅子の魅力とは

名作椅子に共通する魅力や普遍的な価値とは?学芸員の吉岡さんにお聞きしました。
「名作椅子に共通するのは、優れたデザインと、人の体を支える機能とが、一脚のなかで両立していることです。家具のなかでも椅子は、最も人の身体に沿う身近なもの。だからこそ作り手であるデザイナーを引きつけるのではないでしょうか。また、座り心地のよさだけではなく、会議用の椅子のように、使う場所や座る人の立場によって、姿勢や見え方まで計算された椅子もあります。さらに、1960年代に脚光を浴びたプラスチックといった、その時代の最新の素材やデザインの流行が映し出されるのも名作椅子ならではの魅力。だからこそ、それぞれの時代を象徴する一脚になり得たのではないかと思います」


埼玉県立近代美術館の見どころ

埼玉県立近代美術館は建築家・黒川紀章氏が設計。黒川氏が手がけた最初の美術館で、格子状に組まれた鳥かごのような入り口が特徴です。建物の内と外をつなぐ、中間領域のような空間があり、エントランスから2階、3階へと連なる、波打つ曲面ガラスも見どころのひとつ。直線ではなく緩やかに揺らぐことで、硬くなりがちなコンクリートの建築に、柔らかな表情が添えられています。

天井の高い吹き抜けの「センターホール」も魅力的な空間です。上部から自然光が降り注ぎ、彫刻の展示のほか、コンサートやダンスなどのイベントにも使われてきました。入館無料のパブリックゾーンで、誰でも自由に立ち寄れる、開放的な場所となっています。
※写真は花柄毛布を用いた江頭誠氏の作品展示風景(展示は終了しています)

建物の外壁から、巨大なブロックが突き刺さったような彫刻が飛び出しています。1982年の開館後、85〜86年にかけて田中米吉氏が手がけた《ドッキング(表面)No.86-1985》です。黒川氏のグリッド建築に合わせた直線的な造形で、建物の内と外をつなぎ、突き破って入ってくるかのようです。建築と一体となった、迫力ある作品です。


埼玉県立近代美術館

埼玉県さいたま市浦和区常盤9-30-1
Tel 048-824-0111

[時]10:00~17:30 (展示室への入場は17:00まで)

[休]月曜(祝日または県民の日の場合は開館)、年末年始、メンテナンス日

[料]MOMASコレクション 一般200円 ※企画展は展覧会によって異なる

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