「省エネ住宅」は、もうすっかり馴染みのある言葉になりました。しかし、どのような性能や基準があるのか、具体的には分からない方も多いのではないでしょうか。
本記事では、省エネ住宅における3つの性能や省エネ基準、近年注目されている省エネ住宅の種類についてまとめました。
費用面での心配が大きい省エネ住宅ですが、活用したい補助金制度や減税制度も併せて紹介しますので、検討している方はぜひ参考にしてみてください。
省エネ住宅とは
「省エネ住宅」とは、エアコンや照明など、家庭で使うエネルギー消費量を抑えるための設備や建築資材を導入した住宅のことです。
省エネ住宅は、従来の住宅と比べて断熱性や気密性が高く、防露や換気性能にも優れています。冬は室内の暖気が逃げにくくなり、夏は窓から入ってくる太陽熱をさえぎるため、快適に過ごしやすいのが特長です。
家庭内で消費するエネルギーのうち、約30%を冷暖房が占めていると言われています。[注1]
省エネ住宅は、冷暖房に使用されるエネルギー量を抑えることで電力量を減らすとともに、その家で暮らす家族も快適に過ごせる、地球にも人にも優しい住宅です。
住宅における3つの省エネ性能
省エネ住宅には、「断熱」「日射遮蔽」「気密」の3つの性能があり、これらの性能がそろうことで、家庭で使用するエネルギー量を効率的に削減できます。それぞれ性能の高さを表す数値があり、省エネ住宅の評価基準とされています。
① 断熱
「断熱」とは、室内外の熱を伝わりにくくして快適な住み心地を実現することです。断熱性能の高い住宅では、冬は暖房で温められた空気を逃さず、室外の冷気から室内を守り、夏は室外の熱が室内に入りにくくなり、快適な室温を保ちます。つまり、冬は暖かく、夏は涼しい状態を維持できるのです。
室内の熱が、壁や窓を通してどのくらい室外に逃げるのか、外皮全体で平均化した数値を「UA値(外皮平均熱貫流率)」で表します。
このUA値が低いほど、省エネ性能が高い住宅といえます。
② 日射遮蔽
「日射」とは、太陽からの放射エネルギーのことです。冷房期に室内へ入ってくる日射量を抑える性能を「日射遮蔽性能」といいます。日射遮蔽性能が高い住宅では、日射による室内温度の上昇が抑えられ、少ないエネルギー量で冷房を使用できるのが特長です。
住宅の日射遮蔽性能は「ηAC(イータ・エー・シー)値」で示され、このηAC値が低いほど、省エネ性能が高くなります。
③ 気密
室内外の熱の移動を防ぐには、気密性の高さも重要です。住宅における「気密」とは、部材同士の隙間を少なくし、空気の流れを抑えることです。部材の隙間がどのくらいあるのか数値化したものを「C値」といいます。このC値が低いほど、気密性の高い住宅といえます。
ただし、気密性ばかり高くなると室内の空気が悪くなるため、適度な換気も必要です。
省エネ住宅の性能基準
住宅の省エネルギー性能の評価については、「外皮基準」と「一次エネルギー消費量基準」の2つの基準を用います。
外皮基準
「外皮」とは、屋根、壁、窓、床や床下など家全体を覆う部分を指します。これらの外皮性能の高さを、断熱性能を示す「外皮平均熱貫流率(UA値)」と日射遮蔽性能を示す「冷房期の平均日射熱取得率(ηAC値)」の2つで評価します。いずれも、値が低いほど省エネルギー性能が高くなります。日本は南北に長く地域によって気象条件が異なるため、全国を8つに区分して省エネ基準を設けています。例えば、東京23区や大阪市の場合「6地域」に分類されます。まずは家を建てる地域がどこの区分に分類されているか、確認しておきましょう。
<建築物省エネ法 基準値一覧>
6地域では建築物省エネ法の場合、UA値が0.87、ηAC値が2.8となります。ZEH基準では少し厳しくなり、建築物省エネ法の基準(ηAC値、気密・防露性能の確保等)を満たしたうえで、UA値が0.6になります。[注2]
一次エネルギー消費量基準
一次エネルギー消費量は、主に「冷暖房」「換気」「照明」「給湯」の4つが対象となり、エネルギー量の削減率によって評価されます。また、太陽光発電などの自家発電設備が導入されている場合は、エネルギー消費量から差し引くことができます。建築物省エネ法では、住宅の一次エネルギー消費量の基準の水準として「BEI」という指標を用います。
BEIは、省エネ設備や建材を用いて実際に建てる建物の「設計一次エネルギー消費量」を、地域や建物条件などにより定められている「基準一次エネルギー消費量」で除した値で評価した値です。省エネ住宅の一次エネルギー消費量基準に適合となる水準は、BEI≦1.0となります。[注2]
つまり、新築される建築物においては、設計一次エネルギー消費量が基準一次エネルギー消費量以下であれば省エネ基準に適合しているということになります。
また、ZEH基準では20%以上の削減が求められており、設計一次エネルギー消費量が基準一次エネルギー消費量から20%以上、下回らなければなりません。
省エネ住宅の種類について
「省エネ住宅」には、さまざまな種類があります。どれも地球環境に配慮し、CO₂の排出削減を目的とした住宅ですが、重視する部分や認定されるための条件は異なります。
ここでは、近年注目されている5つの省エネ住宅について紹介します。
①ZEH住宅
ZEH(ゼッチ)とは「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の略称です。2050年脱炭素社会の実現を目指すため政府によって発足された、省エネ住宅の新しい評価基準です。ZEH住宅とは、高断熱・高気密の外皮と高省エネ性能を持つ設備を導入し、家庭で使用するエネルギー量を抑えながら、太陽光発電などの創エネ設備を利用することで、年間の一次エネルギー消費量を概ねゼロにする住宅のことをいいます。
ZEH基準は、家を建てる地域や建築条件により「Nearly ZEH」や「ZEH+」などがあります。
【関連記事】ZEH(ゼッチ)住宅とは? メリット・デメリットや補助金制度について詳しく説明!
②LCCM住宅
LCCMは「ライフ・サイクル・カーボン・マイナス」の略です。住宅を建てる際の建築過程から、そこでの生活過程を経て、最終的にその住宅を解体・処分するまでに排出されるCO₂を削減する住宅をいいます。LCCM住宅はZEH住宅と同様、年間の一次エネルギー消費量を概ねゼロにする概念ですが、条件はZEHに加え、太陽光発電パネルが8kw〜9kwの容量を必要としたりUA値が0.5以下だったりと、さらに厳しい基準となっています。
LCCM住宅は「省エネ」「創エネ」だけではなく「長寿命」住宅であることがポイントです。
③長期優良住宅
長期優良住宅とは「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づいて、2009年6月に制定された、国の認定制度です。今まではスクラップ&ビルド型の「家は古くなったら壊して新しく建てなおす」という概念だったのに対し、長期優良住宅はストック型と呼ばれ、長期に渡り住み続けられる家造りが目的です。
古い家を取り壊す際に発生する廃棄物の量を抑えられるため、地球環境にも良いというメリットがあります。
長期優良住宅は2022年10月以降に申請する際、条件が変わります。断熱性能が4から5へ、一次エネルギー消費量は5から6に上がり、ZEH基準と同等のレベルになります。
④認定低炭素住宅
低炭素住宅とは、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を減らすための仕組みや設備を導入した住宅のことです。2012年に「都市の低炭素化の促進に関する法律」(エコまち法)が施行されました。このエコまち法で定められた「低炭素建築物認定制度」の認定を受けた住宅を「認定低炭素住宅」といいます。
長期優良住宅が長期にわたって良好な状態を保つ住宅であるのに対し、認定低炭素住宅は、省エネに特化しているのが特長です。
そのため、省エネルギー基準を超える省エネルギー性能を備えていることや節水機器・HEMSの設置をしているなどの、低炭素化促進のための対策がとられていることが必須条件となります。
⑤スマートハウス
スマートハウスとは、太陽光発電で電気をつくり、蓄電池に電気をためて、IT技術の利用によって電気を賢く使う省エネ住宅のことです。スマートハウスに導入する設備は、太陽光発電システム、リチウムイオン蓄電池システム、自然冷媒ヒートポンプ式電気給湯機、省エネ家電、そしてエネルギー消費を管理するHEMS (home energy management system)などがあります。
ZEH住宅が「年間の一次エネルギー消費量を概ねゼロにする住宅」であるのに対して、スマートハウスは「自家発電で得た電力を、家庭内で賢く効率的に使う」のが目的です。
省エネ住宅の補助金・給付金
従来の住宅と比べて、省エネ性能の高い住宅は、建築コストが上がってしまうのが難点です。そこで、少しでも費用を抑えるための補助金制度をいくつか紹介します。
申請対象となる年齢や、補助を受けられる条件があるため、住宅の購入やリフォームを検討している方は、内容を確認しておきましょう。
ZEH支援事業
ZEH基準を満たした新築住宅を建築・購入する個人、もしくは新築住宅の販売者となる法人が対象です。補助額はZEHが一戸あたり定額55万円、ZEH+と次世代ZEH+が定額100万円、LCCM住宅に関しては140万円まで給付されます。また条件によって加算される場合もあります。[注3]
応募は公募期間を定め、先着順で受け付けており、原則として交付決定通知後に着工する必要があります。交付申請者は、建築主や購入予定者となっていますが、専門知識のあるZEHビルダーに依頼することで手続きがスムーズに進みます。
ただし、公募はZEHビルダーごとに設定戸数があり、依頼するZEHビルダーやタイミングによって、申請できない場合があります。また、予算に達した段階で公募が終了する場合もあるので注意が必要です。
こどもみらい住宅支援事業
若い家族向けの住宅支援事業で、18歳未満の子どもが1名以上もしくは夫婦のどちらかが39歳以下の場合申請の対象となります。ZEH住宅を建てる場合は補助額が最大100万円、長期優良住宅か認定低炭素住宅を建てる場合は最大80万円給付されるため、対象となる場合はZEH支援事業よりお得になるかもしれません。なお既存住宅をリフォームする場合にも、最大60万円が補助されます。(予算の上限に達した場合、予告なく予約申請・交付申請の受付を終了することがあります)[注4]
こどもみらい住宅支援事業の補助金の申請手続き・受け取りは、事業者(販売業者や工事請負業者)が行うため、事業者から注文者に還元されるタイプの補助金になります。また、こどもみらい住宅事業者の業者登録後に着手する建築工事またはリフォーム工事が対象となるため、事業者に補助金について確認するようにしましょう。
新築住宅の補助金申請は補助額以上の工事(基礎工事の完了など)が完了してからの申請となり、引渡し、入居後に完了報告が必要となります。また、リフォーム工事の場合は全ての工事の完了後の申請となります。
既存住宅における断熱リフォーム支援事業
既に所有している住宅に省エネ対策をしたい方には、断熱リフォーム支援事業がおすすめです。断熱性の高い窓ガラスへの交換や建具の交換、外壁や床の断熱工事をすることで、既存住宅が省エネ性能の高い住まいに生まれ変わります。
また断熱改修工事と併せて、家庭用蓄電システムなどの設備導入をした際も補助の対象となります。
補助金額は一戸あたり、蓄電池などを含んで最大合計150万円となります。
長期優良住宅化リフォーム推進事業
長期優良住宅化リフォーム推進事業の補助を受けるには、以下の3つの条件が必要です。・現況調査の実施
・リフォーム後の住宅が一定の性能基準を満たすこと
・リフォーム履歴と維持保全計画の作成
また、補助の対象となる工事はリフォーム全体ではなく、劣化対策・耐震性・省エネ対策など特定の性能項目を一定の基準まで向上させる工事が対象となります。そのほか、キッチンや浴室などの設備を増設する「三世代同居対応改修工事」や、子育てしやすい環境整備に資する「子育て世帯向け改修工事」なども含まれます。
住宅性能の基準には、長期優良住宅(増改築)認定を取得するための基準である「認定基準」と、認定基準には満たないが一定の性能確保が見込まれる水準として「評価基準」が定められており、住宅の性能をどれだけ向上させるかによって補助額は変わります。
認定基準を満たす「認定長期優良住宅型フルリノベーション」では最大250万円、評価基準を満たす「評価基準型リノベーション」の場合は一戸あたり最大150万円まで給付され、申請は施工業者がおこないます。[注5]
省エネ住宅の減税等優遇制度
省エネ住宅の購入やリフォームをする際は、国からの補助金に加えて住宅ローンの金利優遇や減税制度を活用するのもおすすめです。
減税制度は住宅ローンを利用する方と、自己資金で購入やリフォームをする方のどちらにもメリットがあります。
金利の優遇
優良住宅取得支援制度「フラット35S」は、住宅ローンを利用して省エネ性・耐震性・バリアフリー性・耐久性などの高い住宅を購入した方を対象に、一定期間金利の引き下げをおこなっています。具体的には、耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上住宅や、省エネ性能4以上の住宅、高齢者配慮等級2以上の住宅などが当てはまります。
「フラット35S」は金利引き上げ期間が当初5年間プランと、より技術基準の高い住宅を対象とした当初10年間プランの2種類があります。また2022年の10月からは「フラット35S」(ZEH)も新設される予定です。[注6]
減税
住宅ローンを組んで省エネ住宅(長期優良住宅・低炭素住宅、ZEH水準省エネ住宅、省エネ基準適合住宅)を購入もしくはリフォームした場合、所得税の控除を受けられます。また、住宅ローンを組まず自己資金でおこなった場合も、投資型減税の対象となります。[注7]省エネ住宅の購入者に対して不動産取得税の控除や登録免許税の引き下げ、省エネリフォームに対しては固定資産税の減額があるなど、省エネ住宅は税制面での恩恵も受けることができます。
確定申告の際に証明書などの書類を提出する必要があるため、該当する書類を事前に用意しておきましょう。
まとめ
省エネ住宅とは、家庭で使うエネルギー消費量を抑えるための、設備や建築資材を導入した住宅のことです。高い断熱、日射遮蔽、高気密性によって光熱費を抑えられ、快適に過ごせるだけではなく、環境への負担も減らせるのが特長です。省エネ住宅にはさまざまな種類があり、ZEH住宅やLCCM住宅、長期優良住宅、認定低炭素住宅、スマートハウスなどが近年注目されています。
省エネ住宅を建てるには、基準に適合させるための資材や設備が必要となり、その分の建築コストがあがります。しかし、補助金や減税制度なども設けられていますので、利用を検討してみてください。
[注1] 省エネ住宅-家庭向け省エネ関連情報│資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/housing/
[注2]【参考】住宅における外皮性能|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/001390008.pdf
[注3]2022年の経済産業省と環境省のZEH
https://sii.or.jp/moe_zeh04/uploads/zeh04_pamphlet4.pdf
[注4]こどもみらい住宅支援事業(公式)
https://kodomo-mirai.mlit.go.jp/
[注5]長期優良住宅化リフォーム推進事業(令和4年版)
https://r04.choki-reform.com/doc/manga_house_r04.pdf
[注6]フラット35で質の高い住宅取得を応援!|住宅金融支援機構
https://www.flat35.com/files/400360184.pdf
[注7]住宅ローン減税|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000017.html