Enjoy Reading

読書はむずかしくない。
触れるだけ、感じるだけでもいい。

「賢くなるために読書をしなさい」。そう言われて育った人は案外多いのでは? でも読書って、もっと肩の力を抜いて楽しんでいいもの。例えば、おしゃれな表紙の本をズラリと並べて絵のように鑑賞したり、数ページだけパラパラとめくってドキッとする言葉を見つけたり。1冊まるごと読まなくても、本は手に取る人に「うるおいの時間」をくれる。コーヒー片手にソファにゆったり座って、「今日の気分にぴったりな一冊」を膝の上に置いてみては。


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ブックセレクター 川上洋平さんにインタビュー
「読書ってもっと気軽なもの。苦手意識をなくして」

場所や目的に合った本を選ぶ「ブックセレクター」として活躍する、ブックピックオーケストラの代表・川上洋平さん。「読書は気楽に楽しむもの、途中で読むのをやめてもいいし、背表紙を見るだけでもいいんですよ」と話します。本を楽しむコツをテーマに、川上さんが選書を手がけたシェアオフィス「FARO 青山」でインタビューしました。

撮影協力:FARO 青山(http://faroaoyama.com/

ブックセレクターはどんなお仕事?

オフィスなどの空間に合わせて本を選ぶ仕事、と思われることが多いのですが、空間に合わせるというよりもむしろ、本と人をつなぐ架け橋をつくることが、ブックセレクターの本当の仕事です。

その人にぴったりな本を選び、お酒とともに楽しむ「SAKE TO BOOKS」を企画したり、星形インテリア雑貨のそばに星にまつわる小説を置いたり。同じ本でも、どこで手に取るか、誰が手に取るのかで意味合いが変わってきますし、人の心に変化をもたらす場合もあります。そうしたステキな出来事を生むのが本の面白さです。だから、読んでもらうことではなく、人と本をつなぐことが私たちの役目だと思っています。

本好きでなくても読書を楽しむには?

本を深く読み込むのが読書だと考えがちですが、それだけが読書ではありません。海に例えると分かるかと。きれいな海には深く潜ってみたくなりますが、全世界の海に潜るのは不可能。本も全部を読み込もうとすると、途中でおぼれてしまって「もう読書はこりごり」となってしまいます。浅く触れ合うことも知ることで、読書がかえって身近になり、幅広い愉しさを感じていくことができます。

本の背表紙がまさにそうです。背表紙には本のタイトルが書かれているだけですが、それを目にするだけで美しいフレーズが心に残ることもあります。海にも深いところだけでなく、浅瀬もあり、そこには深いところでは出会えないきれいな魚や貝を見つけられるのと同じです。

一冊読み切って本との関係性を終わらせてしまうより、まずはいろいろな本との触れ合い方を楽しんでみてはいかがでしょうか。

本を読むときは読む場所を考えてみる

読書は、読む場所を変えるだけでだんぜん楽しくなります。読む場所が変わると、本との向き合い方が変わってくるんです。例えば、いつもソファで読んでいて、なかなか集中できなければ、ダイニングテーブルで読んでみたり。

本を読むことが楽しいと思える状況に自分を置くことができれば、おのずと読書に集中できます。カフェで読むのもいいし、立って読むのもいい。実は「立つ」という行為は、効率をアップするのにすごく役立つんです。良い書評を書く評論家の中には、本はわざわざ立って読むという人もいるくらいです。

魅せる本棚をつくるコツは?

「誰に見せたいのか」を考えてつくると面白いと思います。奥さんに見せたいのなら、奥さんがピンとくるようなタイトルの本を並べてみたり。また、あえて椅子の上に置いておくと「これ読んでみて」というメッセージが暗に伝わりますよね。

空間に花を挿すように、きれいな表紙の本を一冊だけ置くやり方もあります。読む目的ではなく、飾る目的でヴィヴィッドな本を選ぶのもおしゃれ。「読んでないものを本棚に置くのは恥ずかしい」なんて思う必要はないと思いますよ。

本を贈りたいときに「文庫本葉書」

手紙を送るように、誰かに本を贈る。それを形にしたのが「文庫本葉書」です。表は切手を貼ったり、宛名を書けるハガキのようなデザインに。裏には、中に入っている本から印象的な数行が引用して書かれていて、本を贈る方にはこれを手がかりにして本を選んでもらいます。

中身の本は、私たちブックピックオーケストラのメンバーが「面白い」と思った本を入れています。以前は自分用に購入される方が多かったのですが、今はプレゼントとして買われる方が増えています。

文庫本葉書 700円(税抜)郵送は切手代215円分が別途必要
※取扱店は下記公式サイトをご覧ください。

文庫本葉書の詳細はこちら

ブックピックオーケストラ代表
川上洋平さんがセレクト!
春に向けて気持ちを
新たにしたいときにおすすめの3冊

春の数えかた
日高 敏隆 著(新潮社)

「なぜハチは動くのか」など、身近な生き物の不思議をエッセイ風につづった一冊。動物行動学の専門家である著者が、虫や花などの生態を、四季折々の話題にからめて語っている。本の最後にある短編「春の数えかた」が、春に向けての気持ちを高めてくれる。

春の数えかた公式サイトはこちら

いつも夢中になったり飽きてしまったり
植草 甚一 著(筑摩書房)

かつて大ブレイクした映画やジャズの評論家が、ニューヨークを散歩した出来事や、本や音楽について自由に語った本。新しいことにすぐ手を出す著者の人柄がにじみ出ており、「春になったら何かを始めてみたいな」と思わせてくれる。

いつも夢中になったり飽きてしまったり公式サイトはこちら

詩のこころを読む
茨木 のり子 著(岩波書店)

詩人・茨木のり子が、詩の読み方や楽しさを伝えた本。人生と照らし合わせながら、詩の味わい方を美しい日本語で書きつづっている。誕生、恋愛、苦難など、いまの自分の状況に合ったところから読み始められるのも魅力。読むほどに気持ちが新たになる。

詩のこころを読む公式サイトはこちら


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読書にまつわる新たな体験を愉しむ
泊まれる本屋「BOOK AND BED TOKYO 京都店」

古い邸宅のような重厚感ある扉。その扉を開けると、目の前に不思議な空間が広がっている。ずらりと並ぶ本棚の奥に、まるで秘密基地のような小さな空間。よく見ると、マットにピロー、ブランケットが置かれている。「ここに寝転がって本を読みたい」。そんな衝動に駆られる。

BOOK AND BED TOKYO 京都店は、本棚の中にベッドスペースがある、いわば「お泊まりできる図書館」だ。フロア全体が書庫のようになっており、好きな本を選んでベッドスペースに持ち込める。およそ3500冊の蔵書は、のちほど紹介する恵文社が選書を担当。さらに、毎月BOOK AND BED TOKYOのスタッフが珠玉の一冊を加えていく。本棚のまわりにはソファやクッションもあり、思い思いの場所で読書タイムを過ごせる。

夜。ベッドスペースで文字に目を走らせていると、ついウトウト…。しかし、これこそがこのホテルの狙い。読書しながらの最高の〝寝落ち〟を体験できるのが醍醐味だ。

お酒を楽しみながら読書したい、と思ったら、入口にある宿泊者限定のバースペースへ。京都を中心とした数々の地ビールが並んでおり、好みの1本とおつまみをチョイスしてソファスペースに持ち帰れる。ほろよい気分のちょい飲み読書も乙なものだ。

夜だけでなく、昼間利用できるデイタイムプランもある。本を片手に昼下がりの寝落ちを満喫してみては。

BOOK AND BED TOKYO 京都店

本に囲まれて眠れるホステル。京都のほか池袋や浅草、福岡にもあり、本好きはもちろん、ユニークなホテルに泊まりたい宿泊客の人気を集めている。地ビールのほか、コーヒーなどのカフェメニューもあり、食べ物の持ち込みは自由。共同のトイレやシャワーも完備している。福岡では、ハンドドリップコーヒーを試飲できるイベントも開催。

京都市東山区中之町西入ル200 カモガワビル9階

[宿泊]IN16:00/OUT11:00
STANDARD 4,800円/1泊 ~(土日祝前日、ハイシーズンなどは変動あり)
[デイタイム]13:00~17:00(個室、シャワーは利用できません)
1時間ごと:500円
フリータイム(デイタイム営業時間内)1,500円
※現金での支払いはできません
※価格はすべて税抜き

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一度は訪ねたい京都のスゴイ本屋さん
「恵文社一乗寺店」

本好きから「聖地」と呼ばれているのが、京都にある恵文社一乗寺店。イギリスの大手紙ガーディアンで、「世界で一番美しい本屋10」に選ばれたこともある書店だ。ぐるりと見渡すと、あたたかみのある空間に、ほかの書店では見かけない「ちょっぴり風変わりな本」「斬新な表紙の本」が散りばめられている。出会ったことのないレアな本を発見するたび、未知の世界をのぞき込むようなワクワク感が押し寄せる。

この書店の最大の特徴は、たくさんの本を編集するようにディスプレイしているところ。一般の書店のような「文芸書」「ビジネス書」といったくくりは一切ない。まるで連想ゲームを楽しんでいるかのような本の並べ方が、訪れる人の好奇心をかき立てる。本とリンクするように、生活雑貨やギャラリーがあったりするのも面白いところだ。

「本のセレクトにもディスプレイにも、決まったメソッドはないんです。書店員が自分の感性で本を並べていますから」と語るのは、マネージャーの鎌田裕樹さん。店には毎日のように新しい本が入荷するので、ディスプレイは日ごとに少しずつ変わるという。

書店にありがちなポップがないのも、恵文社一乗寺店ならでは。テーブルや棚にある本の表紙をながめているだけで、数珠つなぎのようにイメージが広がり、やがて「いま自分が読みたい本はこれだ」という一冊にたどり着けるから不思議だ。物語の世界を、気ままに航海している気分になる。

本の並べ方が連想ゲームのようだというのは、例えばこういうこと。ガールズ系の本の中に、恋愛の本や女の子が好きな童話がひそんでいたり、海外の本の中に、日本作家の海外旅行記が紛れていたり。そこには、書店員の愉快なたくらみのようなものを感じる。

「本の大ファンに満足してもらえるようなクオリティを心がけていますが、そうでない人にも、本を『手に取る楽しさ』を感じていただけたらなと思います」(鎌田さん)

恵文社一乗寺店
鎌田裕樹さんがセレクト!
春に向けて気持ちを
新たにしたいときにおすすめの3冊

根っこのこどもたち 目をさます
ヘレン・ディーン フィッシュ 著
ジビレ・フォン オルファース 絵 いしい ももこ 訳編(童話館)

春を前に、生き物の〝根っこ〟の子どもたちが土のお母さんに起こされ、やがていっせいに土の中から出てくるというストーリーが、かわいい絵でつづられている。冬眠から目覚め、眠い目をこすりながら春の準備をする子どもたちの様子に、あたたかい季節の到来を感じる。

根っこのこどもたち 目をさます公式サイトはこちら

茨木のり子詩集
谷川 俊太郎 選(岩波書店)

キレ味のある詩を世に送り出し続けた詩人、茨木のり子の選りすぐりの作品を凝縮している。ストレートで鮮烈な表現の詩が多く、厳しさがあるが、自分を立て直し、春に向けて再出発したい人にとっては、自らを奮い立たせる栄養剤となる。

茨木のり子詩集公式サイトはこちら

目に見えない世界を歩く 「全盲」のフィールドワーク
広瀬 浩二郎 著(平凡社)

国立民族学博物館の准教授で、全盲の研究者である著者が、自らの研究や半生を物語った一冊。目が見えない人にこそ見える世界、見えないからこそできることを教えてくれるので、いい意味で先入観を打ち壊される。気持ちを一新するのにぴったり。

目に見えない世界を歩く 「全盲」のフィールドワーク公式サイトはこちら

恵文社一乗寺店

流行の本ではなく、書店員が納得いく本を一冊一冊厳選して陳列している書籍のセレクトショップ。本と読み手の「思わぬ出会い」が生まれるよう、さまざまな切り口で本棚を“編集”しているので、行くたびに新たな発見がある。書店と隣り合わせるように雑貨店とギャラリーが併設。本にまつわる日用雑貨やアートを探すのも楽しみ方だ。

京都市左京区一乗寺払殿町10
Tel. 075-711-5919

[時]10:00~21:00 [休]1/1

恵文社一乗寺店公式サイトはこちら