2026.08.28 公開
Disaster prevention× Storage
もしもの備えは大切とわかっていても、「何から手をつければいいか」と悩む方は多いはず。防災収納インストラクターとして活躍する松永りえさんは、平成28年熊本地震の被災体験から気づいた「住まいの中の危険」と向き合い、防災と収納を掛け合わせた独自のアプローチを提唱しています。前編では、松永さんに住まいの中の見直しポイントを教えていただきました。
松永りえさん
熊本在住の防災収納インストラクター・整理収納コンサルタント。2016年の熊本地震での被災を機に「快適な暮らしは安全の上にこそ成り立つ」と実感し、防災収納を提唱。テレビ・講演・執筆など幅広く活動し、著書に『地震に強い収納のきほん(扶桑社)』『もしもに役立つ、いつものモノ選び 防災グッズは備えず使う!(エムディエヌコーポレーション)』などがある。

― 2016年に発生した熊本地震での被災経験が防災収納インストラクターになるきっかけになったという松永さん。被災時にどんなことに困ったのでしょうか。
「まずは、地震の揺れでテレビが倒れたり、ペンダントライトが割れたり、身の危険を感じました。被災時は整理収納アドバイザーとして活動していたのですが、見栄えや機能性だけを考えていたので、安全対策は全然できておらず…。ただ、普段から片付けをしていたからこそ大きな被害を免れた部分もありました。また、被災生活では電気は1日で復旧しましたが、水は1週間、ガスは2〜3週間かかりました。備蓄をしていなかったので、水や食べ物の確保が大変でしたね」

― 普段の片付けが安全につながることに気づかれたことで、防災収納に着目されたのですね。
「片付けの効果を実感する一方、安全対策の抜けに気づいたのですが、それを伝えている人が世の中にいないと思ったんです。日々の暮らしに役立ちながら、安全にもつながる整理収納を発信すれば、若い世代にも届くと思い、防災について学びました。ずっと続けていたブログも、防災寄りの内容に方向転換し、片付けサポートでも防災の視点を加えるようにしました。物を整理することで気持ちが整い、日常生活が心地よくなり、もしものときの備えにもつながる。そんなサポートをめざして現在も活動しています」

― 片付けサポートのご相談や講演でどんなことを大事にされているのですか。
「話を聞いて終わりではなくて、ご自身で考え、実践していただくことが大事だと考えています。そのため、私が一方的に話すのではなく、『家の中で危ないと思うこと』を書き出すワークの時間を必ず設けています。書いたメモはリビングの目につく場所に貼ってもらうんです。頭の中でわかったつもりになっても、実行できないことが多いので。そして、書き出した中からベスト3を選んでもらって、その1つでもいいのでまずは実践していただくようにお伝えしています。たった1つでもご自身でやっていただくと、充実感が得られます。一歩踏み出せば、エンジンがかかり、次々とやっていただけることが多いですね」

― 日本各地で地震が多発していますが、今すぐにでも安全面で見直したいポイントをうかがいました。
「地震発生時には、安全なスペースに逃げることを意識しておきましょう。そのために、身の安全を確保できるエリアを家の中につくり、できれば備蓄品を用意しておきます。安全なスペースは、『なにも落ちてこない・倒れてこない・移動してこない』の3つが基本。特に寝室は危険なので、真っ先にこの環境を整えてほしいですね。自宅だけでなく、職場などでも意識するだけで命を守ることにつながります。オフィスでも何百キロもあるコピー機が地震の揺れで動いて、怪我をするケースもあります」


「防災収納の基本は、出しっぱなしにしないこと。調理器具や食器は、使ったらしまうという習慣を徹底しています。東日本大震災では菜箸が飛んで刺さって大怪我につながったケースもあるほど。それぐらい、出しっぱなしは危険。特に、コンロのまわりに燃えやすい物を置かないようにしましょう。調理器具を吊るす収納も、防災の観点では避けたいポイントです。かけるとしても、できるだけ少量にして、燃えない素材で飛んで当たっても危なくないものにしてください」


「直下型の能登半島地震では、下からの衝撃で電子レンジが壁を突き破って飛んでいったという話を聞きました。電子レンジやオーブントースターには粘着力が強力な専用アイテムで固定し、揺れても動かないようにしています。また、冷蔵庫はベルトストッパーで壁に固定していますが、これはあくまでキッチンから避難するまでの時間を稼ぐためのもの。ストッパーで耐えている間に急いでその場を離れることが大切です」


「家具は好きなものを選びつつ、背の高いものは避けて腰の高さまでにするのが基本です。圧迫感がなく、部屋を広く見せる効果もあり、それがそのまま安全にもつながります。照明は揺れない・落ちない・割れないシーリングライトで統一。2016年の熊本地震では、陶器製のペンダントライトが揺れでダクトレールにぶつかり割れて落下し、危険な状態になってしまいました」


「テレビは耐震ベルトで固定し、脚には防振マットを敷き、ダブルで対策しています。熊本地震の前震では奇跡的に無事だったテレビも、本震の揺れには耐えきれず倒れて壊れてしまいました。少しの金額と労力を惜しんだために、大きな出費になってしまって。それが家電の地震対策を強化するきっかけになりました。あと、キッチンカウンター下の棚もつっぱり棒で固定しています」


「地震の揺れで移動してしまうキャスター付きの家具や観葉植物は、どう動くか予測できないので要注意。ロックしたり、扉のある場所にしまうなど移動しないための対策が必要です。観葉植物はキャスターに乗せないのが一番の対策ですね。熊本地震では細身の鉢が一瞬で倒れてしまい、片付けが大変でした。その経験から重さがあり、重心の低い安定感のある鉢を選び、鉢の下に滑り止めのマットも敷いています。植物を吊るす場合は、その下を人が行き来しない部屋の端などに吊るす、割れない素材にする、鉢が不要なドライフラワーを選ぶといった工夫が必要です」


「廊下や玄関は避難経路となる大切な場所なので、避難の妨げになる物を置かないようにしています。玄関に置く靴は1人1足と決め、傘もシューズボックスにしまっています。廊下には、お気に入りのイラストを軽くて割れないアクリル製フレームに入れ、壁にしっかり固定しています。正しく対策すれば、インテリアを飾ることもできます。また、廊下のコンセントには人感センサー付きLEDライトを設置。普段、夜にトイレに行くときに便利ですし、停電時でも懐中電灯代わりになり、おすすめのアイテムです」

「『お風呂の水を抜かずにためておく』というのは昔からよく言われる対策ですが、排水管の状態によっては余震のたびに水漏れを起こす恐れも。また、マンションなどの集合住宅では、水をためていても排水管の安全が確認できるまで流してはいけません。そのため、集合住宅では基本的にためないほうがよい、という考え方に変わってきています」

後編では普段の暮らしも快適にする安全な片付け・収納術をご紹介。9月下旬に公開予定

ムリなく楽しく続けられる“もしもの備え”に着目。キャンプの知識や経験を活かした「ながら防災」を提唱するCAMMOCの代表 マミさんにお話をうかがいました。

実用性があり、見た目も良く、家に置いておきたくなる防災グッズを、雑貨コーディネーターのオモムロニ。さんに教えてもらいました。非常時はもちろん、日常でも使えるフェーズフリーなアイテムをご紹介。